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舞はしどろもどろになった。
「えっと、だから……これから、変なこととかしないでちゃんとしてくれるなら、私、少しは、」
久松が思わず吹き出した。
唖然と口を開いた舞を尻目に、身体をくの字に折って爆笑している。
手のひらが何度もベッドの縁をたたいた。
笑いすぎて目に涙を滲ませながら、
「ほんっとに面白いね、君は。あれだけいろいろされといて、まだ俺のこと信じるんだ」
「な……違います!信じてなんかいません」
舞は言い返したが、久松は耳に入っていないのか笑い転げている。
ひとしきり笑い終えると、久松は不意に真面目な顔になった。
「あんまりさ、そうやって人のこと信用しないほうがいいよ」
「だから、」
信じてません、と言いかけた舞の言葉は、突然の抱擁で妨げられた。
背中に腕を回され、閉じ込めるようにきつく抱きしめられる。
氷のように冷たい身体が、久松の体温と融和してわずかに暖まる。
驚きが一瞬、その後に鮮烈な恐怖が襲い、舞は腕の中でもがいた。
身の危険に心が激しく警報を鳴らしている。
「離して!」
「無理」
久松は端的に言うと、さらに腕に力を込めた。
胸に顔を押しつけられ、身体が完全に密着した状態で、舞は息苦しさに喘いだ。
「久松さん、痛い、」
肌を通して直に体温が伝わり、身体は燃えるように熱くなってきた。
酸素が圧倒的に足りず、息があがってくる。心臓の鼓動が狂ったように速い。
この人は自分を殺そうとしているのではないか、と舞は本気で疑った。
気が遠くなるくらいの時間がすぎてようやく、久松は舞の身体を離した。
「やっと温まったね」
言われてようやく、舞は寒気が嘘のように治まっていることに気づいた。
頬は上気し、額にはうっすらと汗をかいている。
「こんなの誰も頼んでません」
舞はそっぽを向いた。
「何?なんか別のこと期待してたの?」
久松がからかうので、
「してません!」
舞は今度こそスタンドライトを投げつけたのだった。




