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肌を突き刺す冷気に包まれ、舞はうめき声をあげながら、両手で体を抱きしめた。
歯が壊れそうに震える。吐きだした息さえ白い塊になって凍りつく。耳がちぎれそうだ。
視界が白く曇り、もはや何も見ることができなかった。
舞が凍りついた瞼をゆっくりとおろして眠りにつこうとしたとき、密閉されたものが開封される景気のいい音がして、なま温かい空気が流れ込んできた。
音に反応することもできず、倒れ込んだまま目を伏せていると、誰かが近づいてくる硬い足音がして、頬を優しい手が撫でた。
目も開けられず意識も朦朧としたまま、赤子が母親の手にすがるようにして、凄まじい勢いで舞はその手を握りしめた。
心強いぬくもりに、百合だと確信する。助けに来てくれたのだ。
凍りついた身体の中で、心だけがお湯を注がれたかのようにひたひたと温かかった。
私――死ぬのかな。
舞は混濁する意識の中で思った。
不思議と怖くはなく、安らかな思いに満たされてゆく。
きっと百合は、あの女神のような顔で見ていてくれるだろう。
舞は差し出された手を両手で包みこみ、自分の胸に引き寄せて言った。
「大好きです」
驚いたように手がぴくりと動くが、舞は力を込めて放さなかった。
冷たい唇を動かし、凍った喉を震わせて、たどたどしく伝える。
「ありがとうございます。私を助けてくれて。今までも、ずっと」
返事はない。困惑したような沈黙が続いている。
目の前がどんどん暗くなっていく。もっと伝えたいことがあるのに。
全身の力を振りしぼると、息の音と共にかすれた声が出た。
「あなたに会えて……本当によかった」
想いは届いただろうか。
百合は、どんな顔をして自分の言葉を聞いてくれただろう。
ほんの少しでもいい、伝わっていてほしい。
心の底から祈りながら、舞は両手を組み合わせたまま気を失った。




