05
百合は嬉しそうに両手を合わせて、
「素敵な方ですね。イケメンな上に有能だなんて」
杉崎は苦笑した。
「おやおや。わたしを忘れてもらっちゃ困るな。百合君を指名したのは、あくまでわたしなんだから」
「はい、承知しております。今夜は杉崎さんのおごりで思い切り呑みましょうよ。ね?」
百合は久松に微笑みかけると、勝手に近くの黒服を呼んで、
「ドンペリお願いします」
杉崎が「おいおい」と困ったように笑う。だが満更でもなさそうな様子だ。
「久松様、何をお呑みになります?」
「じゃあウイスキーの適当なのを」
「かしこまりました。あやめ、お願いね」
「は、はい」
百合は杉崎が煙草を取り出せばすかさず火を点け、酒が空く前にさりげなく次の分を頼む。
相手を持ち上げ、気持ちよくさせる会話術もお手の物だ。
それに比べて、久松と舞の間には、靄がかかったような沈黙が続いていた。
何か言わないと。話さないと。そう思うのだが、唇が震え、喉がひくついて言葉にならない。
今宵の舞は菫色の上品なドレスに、黒髪を軽く巻いて、化粧もそこまで厚くはない。昼間と少し印象が異なる程度にすぎない。
どうか気づかないでと、祈るような思いでアイスピックで氷を割り、ウイスキーを注ぐ。
美しい透明なバカラグラスに、琥珀色に光る液体が満ちた。
「どうぞ」
及び腰のまま危なっかしい手つきで渡すものだから、久松が受け取る前に、ウイスキーがこぼれて膝に軽くかかってしまった。
「申し訳ありません!」
舞は怯え、縮こまるようにして頭を下げた。