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結果的に、舞は非常に満足な結果でグループディスカッションを終えることができた。
テーマは以前にセミナーで経験したものと類似していたし、受験者たちも優秀で、自分の意見を持ちつつも協調性があって話し合いは円滑に進んだ。
舞は特にリーダーや書記などの役割を務めることはしなかったが、話が途中で脇道に逸れそうになるのを修正したり、問題点を整理したり、発言していない人にさりげなく意見を求めるなどして話し合いを補佐した。
6人が出した結論は納得のいくものだった。
思わず鼻歌を口ずさみたくなるほどいい気分で廊下を歩きだし、エレベーターホールに向かって角を曲がろうとしたとき、不意に声がかかった。
「小林さん」
振り向いて、飛び上がるほど驚いた。
久松爽が立っている。
ただそこに立っているだけなのに、この全身から放たれる凄まじい殺気はどういうことだろう。
恐ろしさに背筋が凍りつく。
他の学生たちは解き放たれたような表情で、足早にエレベーターに乗り込み消えてゆく。
悲鳴を上げて逃げ出したい気持ちを何とかこらえながら、舞はへばりつく喉から声を振りしぼった。
「何でしょうか」
「選考に関してお伝えしたいことがあるので、少しお時間いただけますか?」
嘘だ。
先ほど他の学生たちもいたときに、今後の選考について一通り説明していたのに。
あからさまな口実が、どうしようもなく恐怖をかきたてる。
何て無慈悲で凶暴な笑顔なのだろう。有無を言わせず目線だけで息が止まりそうだ。
捕まったら殺される。舞は本能的な危険を感じて後ずさった。
「すみません。次の選考に遅れてしまうので」
きびすを返した舞の腕を、久松が思いきりつかんだ。舞は思わず顔を歪めた。
救いを求めて周囲を見渡すが、あざ笑うかのようにフロアには人っ子ひとり残っていない。
選考のために貸し切られているのだ。
「そんなにお時間は取らせませんよ。すぐ済みますから」
そう言って久松は強引に舞を会議室に連れ込んだ。
ドアを閉めると、舞を後ろから突き飛ばす。その場に膝を打ちつけて倒れ込んだ。
「何、」
言いかけた言葉は容赦なく唇でふさがれる。むさぼるように乱暴な口づけが繰り返された。
「んん……っ」
手を突っ張って押しのけようとしても、圧倒的な体格と力の差のせいでびくともしない。
こんなところが社内の誰かに見られたら、久松の首は確実に飛ぶだろう。
一体何を考えているのか。
それとも、何も考えられないほど頭のネジが外れているのか。




