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葵の会社説明は実に分かりやすく、第一線で働いている者特有の冴えた観察眼が光っていて、舞はうならされた。
とても太刀打ちできる気がしない。こんな人が自分の大学のOBだなんて信じられない。
久松は、別の意味で信じられない先輩だが。
葵からは、四菱を支える人間としての誇りが伝わってくる。
それは、久松が四井に感じているものと変わらないのだろう。
知らず知らずのうちに久松のことを考えていることに気づき、舞は首を振った。
最近、彼が店に通ってくる回数が減った。
前は週に二、三度は必ず足を運んでいたのに、年も明けた今は月に二回もくればいいほうだ。
自分に興味を失っているのならいいが、何もないとそれはそれで不安になってくる。
しっかりしなければ。千草という人も言っていたではないか。脅しに屈していてはだめだと。
修一のように応援してくれる人もいる、もう三ヶ月前の自分とは違うのだ。
「以上だ。そろそろ時間だが、何か質問はあるか?」
「いえ、詳しいご説明ありがとうございました。本日の有意義な時間を通して、ますます御社への志望度が高まりました。よろしくお願いいたします」
深く頭を下げた舞に、葵は手を振って、
「いや。お願いされても俺は人事じゃないから、採用の決定権はないんだが」
「いいんです。お伝えしておきたかっただけなので」
「お前は見込みがある。うちに来い。待っている」
心強い言葉が嬉しくて、頬が真っ赤になった。
「はい」
「あれ?篠宮じゃないか」
聞き覚えのある声に、舞は凍りついた。
怪訝な顔をして葵が振り向く。
すらりと目立つ長身に、端正で派手な面差し。口元には余裕の笑みを浮かべている。
「どうしてお前がこんなところにいる」
葵は心底嫌そうな顔をした。
久松は面白そうに喉を鳴らして笑い、
「そんな邪険にするなよ。セミナーでこのホテルを使ったんだよ。今その帰り」
今さら気づいたようなふりをして、わざとらしく、
「おっとごめん。話し中だったかな?」
「そのとおりだ。とっとと失せろ」
にべもない言い草に、はらはらしながら事のなりゆきを見つめる。
よく久松相手にここまで攻撃的な態度が取れるものだ、彼が怖くないのだろうか。




