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生気の消えた瞳に雄介はいち早く気づき、スペアキーを使って勝手に部屋に押し入り、説得を始めた。
「あの時の雄介さんは、本当に面白かったなあ。『あなたが死ぬなら、僕が先にこの部屋から飛び降りる!』って言ってね。いろんな話をして、必死になって僕を引きとめてくれた。あまりにも一生懸命で、不思議になったくらいだよ。この人はどうしてこんなに熱心なんだろうってね。
この人の話がもっと聞きたい。そう思ったら、もう飛べなかった」
舞は当時16歳だった。
滞在中、父親と話をしていた修一と、何度か挨拶を交わしたことを覚えている。
チェックアウトの際に修一が自分の身分を明かし、家族みんなで仰天したことも。
「そうか。今、大学3年生なのか」
「はい。あと1年ここで働いて学費を払って、卒業したら少しでもいいところに就職して、弟と母に楽をさせてあげるつもりです」
「就職のあてはあるのかい?」
舞は苦笑する。
「あるとは言い切れません。だけど私、必ず内定をもらってみせます」
しなやかで強い表情に、修一は胸を痛めた。
「もしどこにも就職できなかったら、僕の事務所へおいで。きっと、1つや2つは知人の会社を紹介できると思うから」
「そんな、とんでもありません。笠原さんにご迷惑をおかけするわけにはいきません」
「迷惑なんかじゃない。小林さんは僕の恩人だ。その家族に親切にするのは当たり前のことだよ」
目頭が潤んだ。
「本当にありがとうございます」
「学費や生活費のことだって、遠慮せずに頼ってくれよ。ここで会えたのも何かの縁だ。力になれることがあるなら何でも言ってほしい」
甘い誘いに心がぐらつくが、唇を引き結んで首を振る。
この人は政治家なのだ。自分が頼ったり甘えたりすることで、彼が迷惑をこうむるようなことがあってはならない。
自分の人生は、自分で切り開かなければならないのだ。
けれどもその気持ちだけは、優しい真心をもらったことだけは、生涯忘れずにいよう。
いつか、感謝を形にして返すために。
「私は大丈夫です。久しぶりに笠原さんとお会いできて嬉しかったです。これからも、ご活躍をお祈りしています」
修一は舞に右手を差し出して硬く握手をする。
「ありがとう。舞君、君もどうか元気で」




