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「本当よ。全然来てくれないから寂しかったわ」


椿の愛のこもった軽口に、修一は照れて頭をかく。


瞳が不意に上げられ、端っこに呆然と立ち尽くしている舞をとらえた。


目が合い、舞は思わず声を洩らしていた。


「君は……」


言いかけた修一に気付かず、椿は、


「じゃあ百合がお席まで案内しますね。ごゆっくり」


「お久しぶりです、先生」


百合の男殺しの笑顔と声を素通りし、修一はからめられた腕をほどいて、


「百合君。あの子は」


百合は怪訝そうに視線の先を辿り、舞を見つけて「ああ」と頷いた。


「前に来てくださったときには、まだここで働いていなかった子です。あやめ、こっちへいらっしゃい」


心臓がひどい速さで鼓動を打った。


「あやめと申します」


「私が一番かわいがっている後輩なんです。先生も仲よくしてあげてくださいね」


修一は百合の声が耳に入っていないかのように、


「久しぶりだね。……もう1年になるのか」


舞はうつむき、恥じ入って身を小さくしている。


「ずっとどうしているのか気になっていたんだ。だけどまさか、君がこんなところにいるなんて、思いもしなかったよ」


「どういうことです?」


百合の目元が硬く強張る。


修一は小さく手を挙げると、


「百合君。済まないが、しばらくこの子と二人きりにさせてもらえないだろうか。もちろん、君の分の指名料はきちんとお支払いするよ」


百合は横っ面を張られたような顔をした。


だが、すぐ笑顔の仮面の下に感情を押し隠し、


「承知いたしました。あやめ、六〇番の個室にお通しして。よろしくお願いね」


舞は口ごもりながらも謝りかけたが、


「行こう」


修一が舞の肩を抱いて歩きだしたので、なすすべなく従った。

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