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「最近、明るくなったわね」
仕事に入る前、更衣室で鈴蘭に声をかけられ、舞は振り向いて照れ笑いした。
「そうでしょうか」
おっとりとした顔立ちの鈴蘭は「ええ」と頷く。
ぱっと人目を引く美人ではないが、親しみやすい印象があった。
「何だか綺麗になったし。お客様も増えたんでしょう」
「はい、お陰さまで。ありがとうございます」
突然バン、と激しい音を立てて牡丹と取り巻きの二人が入室してきた。
「邪魔」
突きさすように言われて、舞は慌てて更衣室を出た。
鈴蘭が言ったとおり、舞は徐々に顧客を伸ばしていた。
百合や牡丹のように派手に盛り上げるのは難しいが、落ちついて丁寧に話を聞くことはできる。
一度それが分かると、今までのように慌てて失敗したり、おどおどすることが格段に減った。
比べて牡丹は、ここ最近売上が落ちているようだった。
深呼吸をして店のフロアに出る。
「おはようございます」
「おはよう、あやめ」
ママである椿と会話をしていた百合がこちらに気づき、咲き誇る大輪の花の笑顔で出迎えた。
「何かいいことでもあったんですか?」
「いいえ、何もないわよ」
と言いながらも、彼女を取り巻く空気は明るい華やぎに彩られている。
大らかに笑いながら、椿が百合の脇腹を小突いた。
「この子ったら、久しぶりのお客様がいらっしゃるから、はしゃいでいるのよ」
「まあ」
舞は両手を合わせて瞳を丸くした。
来るのが楽しみになるような相手がいるとは初耳だった。
客あしらいのうまさは抜群だが、百合は基本的に公私混同をしない。
客に惚れられることはあっても、自分が客に入れ込むことは決してなかった。
どなたなんですか、と聞こうとした瞬間、大扉が開いてただならぬ空気が流れ込んできた。
舞は、そこに立つ人影を捉えて息を呑む。
「いらしたわ」「素敵な方」「何て貫禄なの。さすが大物政治家ね」
「今度史上最年少の大臣になられるとか。まだお若いのに、凄いわね」
にわかに店内が色めき立つ。
視線を一身に浴び、その男性――衆議院議員の笠原修一は低く通る声で言った。
「お久しぶりです、椿さん」




