アフターストーリー・69
舞は怒りが消え、いつになく心に安らぎが戻ってくるのを感じた。
それと同時に、そろそろと身じろぎをして、
「あのう……久松さん?そろそろ離してもらえませんか。氷枕とか用意しますから」
「それよりさ、」
久松は熱に浮かされたような瞳で、じっと舞を見つめる。
舞は何だか嫌な汗が背中をつたってゆくのを感じていた。こういう予感は外れたためしがない。
「昨日と今日、あいつとどこに行ったの」
口調こそ穏やかだが、目には剣呑な光が宿っている。
「……っ」
やましいことは一切ないのだが、舞は言葉に詰まって目を逸らす。
「俺は昨日あいつに、君を地下鉄の駅まで送って、会社近くのカフェにでも預けておいてって言っといたんだよね。なのに、なぜか君たちはずーっと一緒にいて、随分と仲よくなったみたいだね」
にこやかながら殺気に満ちた気配に、舞は慌てて久松の腕から逃れようとする。
「ち、ちが」
「俺、言ったよね。浮気するような悪い子は、お仕置きするって」
病人とは思えない力でがっちりと押さえつけられる。
舞はこれまでの経験上、これから先の展開が読めすぎて泣きそうになった。
久松は体調の悪さはどこへやら、もはや完全に舞の上にのしかかって、嬉しそうに満面の笑みを浮かべている。
その凶悪さといったら、魔王でも尻尾を巻いて逃げ出しそうだった。
肩に手をかけられて服をはだけられ、舞は懇願するように言った。
「待ってください。久松さ」
「待たない」
久松はきっぱりと言い切ると、唇で舞の言葉を封じる。
「……風邪ってさ、うつせば治るんだったよね?」
その言葉を聞いた瞬間、舞は最後の望みの糸が切れるのが分かった。




