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『ごめんなさいね、突然お電話さしあげて。実は、折り入ってあなたにお聞きしたいことがあるのだけれど』


「何でしょうか」


『弊社の久松が、何かあなたにご迷惑をおかけしていないかしら』


舞は携帯を握りしめたまま硬直した。


沈黙に、受話器の向こうの声が曇る。


『やっぱりそうなのね。こちらとしても、事が起こる前に何らかの対策を講じなければと思っていたのだけれど。本当に、何とお詫びしていいのか』


「私……あの」


『ただ、今年の採用に関しては、ある段階まで彼に一任するということで話が決まっているの。だから申し訳ないんだけど、担当者を変えるわけにはいかなくて』


本当ならこの時点で、舞は何かがおかしいと気づくべきだった。


だが、突然差しのべられた善意の声に、完全に舞い上がって真実を見失っていた。


『だから、今後は私の指示に従ってください。大丈夫よ。私が必ずあなたを守ってあげるから』


「はい。ありがとうございます」


わらにも縋る思いで、舞は首が外れるほど頷いた。


『まず、今後は一切彼の誘いに乗らないこと。話しかけてきても、脅し文句をちらつかされても突っぱねること。いいわね?』


「でも……」


大丈夫よ、と受話器の向こうの声は頼もしく断言した。


『もし彼があなたを脅かすようなことを言ってきたら、こう言い返してやりなさい。「私も千草さんにあなたのことを言いつけてやる」とね。そうすれば彼は絶対にあなたに逆らえないわ』


まるで最終的な決定権を握っているような物言いに、舞は強い安心感を覚えた。


『いい?黙って言いなりになっているだけじゃだめよ。あなただって相手の弱味を握っているんだから、逆にそれを利用して脅し返してやるのよ。あなたには私がついている。そう思えば怖くないでしょう?』


「ありがとうございます……!」


何ていい人なのだろう。こんな人がいるなら、四井よついも捨てたものではないかもしれない。


『私がアドバイスしたってことは、久松や他の就活生には内緒にしてね。本当は、こういうことはしちゃいけないって言われているの』


「分かりました」


『それじゃあ、また連絡します』

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