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アフターストーリー・56
けれど――今戻れば久松はまたうまい口ぶりで舞を言いくるめ、あの笑顔で全てをうやむやにするだろう。
なしくずしになっている光景と、久松の「してやったり」とでも言いたげなどや顔が目に浮かぶ。
そしてまた、怒りがふつふつと胸の中でたぎってきた。
許せない。絶対許せない。あの男の思惑にはまってなるものか。
手の平に爪を突き立てて舞が怒りを反芻していると、突然スマホが鳴り響いた。
慌てて取り落としそうになりながら、舞は久松の名前を思い浮かべて気分を滅入らせる。
だが、そこに表示されていたのは、見知らぬ番号だった。
不思議に思いながらも、仕事関係だろうかと思って通話ボタンを押す。
「……もしもし?」
『あーもしもし?小林さん?』
闊達で温かみのある声に、舞は目を見開いた。
「狭山さん……」




