表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/292

26

就業後、久松が背中をたたかれて振り向くと、複雑な表情をした千草が立っていた。


「久松君お疲れ」


「お疲れさまです。どうかしました?」


「ちょっといいかしら」


千草は言い、ラウンジを手で示した。


久松は頷き、彼女に従ってオフィススペースを出る。


自販機で温かいカフェオレとコーヒーを買うと、千草は久松に差し出した。


「ブラックでよかったよね」


「ありがとうございます」


受け取って一口つけると、じっと彼女を見つめる。


「単刀直入に言うけど、久松君、最近女と変なことになっているでしょう」


久松は乾いた笑い声を立てる。


「どうしたんですか、やぶから棒に」


千草は珍しく言いにくそうに口ごもっていると、


「こんなこと言いたくないんだけど」


テーブルの上に1枚の紙片を置いた。


書かれている内容に目を通した久松の顔が、わずかに強張る。



『四井不動産人事部 千草かなえ様


 あなたの所業は分かっています。

 暴露されたくなければ、今すぐ人事部採用担当の久松爽を解雇しなさい。

 要求が呑めない場合、この写真を奥様に送付します』



「何の冗談ですか?これ」


「それを聞きたいのはこっちよ」


髪をかきあげて額を押さえながら、千草は疲れた声で言った。


「写真というのは?」


「取引先の妻子ある人とホテルに入るところを撮られたみたい。向こうも割り切ってるから、別にいいんだけどね」


千草はあっさりと言った。


「それにしても、要求が金じゃなく俺の解雇ってどういうことだろう。千草さんにそんな決定権がないのは分かってるんでしょうかね」


「さあ。私の立場じゃできないと分かった上で当てつけてるのか、私とあなたの関係を知る者の嫌がらせか――どちらにせよ、相当恨まれてるわよ、あなた」


久松は目を細めて笑う。


「脅かさないでくださいよ。俺がターゲットと決まったわけでなし。もしかしたら誰でもよかったのかもしれませんよ。千草さんを困らせたかっただけとか」


と言いながらも、久松は冷静沈着に結論を出していた。


文面から見ても、これは明らかに自分に当てた脅迫だ。


千草は目的を果たす駒に使われたにすぎない。


「思い当たるふしは?」


「正直、ありすぎて答えようがないですね」


だから女関係に気をつけろって言ったのよ、と千草は顔をしかめる。


「いい?遊ぶのはいいけど、相手を選びなさいよ。こういうことしでしそうな女なんて分かりきってるでしょう。堅くて真面目なお嬢さんよ。どこかで手ぇ出したのよ、きっと。

思い出しなさい。それで、泣いて謝るなり刺されるなり、きっちりけじめつけて来なさい」


「怖いこと言うなあ」


まるで見てきたように言う千草に、久松は笑いつつも脅威を感じていた。


先程から頭をちらつく少女の姿と、その言葉がぴったり結びついていたので。


今一番自分を恨んでいる女がいるとしたら、きっと彼女だ。


「そういうことで、私しばらく男関係自重するから。あなたも夜道を歩くときは、せいぜい気をつけなさいよ」


「ご忠告痛み入ります」












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ