アフターストーリー・30
マシュマロのように柔らかく寝心地のいいベッドで夜を明かし、翌朝早く目覚めた舞は、久松の住むマンションに向かおうと思い立った。
久松から直接場所を聞いたわけではないが、一詩が名刺を渡す際に自分の住所を指して、「久松のマンションも近くにあるんだ」と言っていたのを聞いて、頼み込んで教えてもらったのだ。
今日は土曜日で仕事は休みだし、わざわざホテルまで迎えに来てもらうのも悪い。
せっかくの少ない時間を、移動に費やすのはもったいない。
つまり、早く久松に会いたい。顔が見たい。それだけだった。
一詩は「おごってもらえ」と言ったが、舞は律儀に自費でチェックアウトを済ませた。
請求額の大きさに目を瞠る。
幼いころは社長令嬢だったとはいえ、成人してからはずっと貧乏生活が続いていた舞にとって、破格の値段だった。
払えない額ではなかったが、贅沢に身が縮む。
日本にいる母や弟に申し訳なく思った。
特に踊は、こちらに連れてきてやりたかったなと後悔する。
不意に猛烈なホームシックに襲われて、今すぐ自宅に飛んで帰りたい衝動が胸を突きあげた。
思わず、ぎゅっと鞄の紐を握り締める。
しっかりしなきゃ。
まだ久松さんに会ってもいないのに、こんな所でへこたれてどうするの。




