アフターストーリー・12
「マジお熱いっすね!ラブラブっすね!やっぱ久松先輩すごいっす!俺も恵ちゃんと」
がつん、と鈍い音がして恵の拳が松尾の頭にめりこむ。
葵は地球外生命体を見るような目つきで久松を見ると、
「……お前、よくそういうことを平気で言えるな」
それは奇しくも舞の心の声をそのまま言葉にしてくれていた。
久松は外国人のように両手を広げて優雅に肩をすくめる。
「俺は普段から思ったことを正直に言ってるだけだけど?」
貴公子のような微笑みでいけしゃあしゃあと言う夫に――そう、今日からこの人は自分の夫となったのだ――舞は呆れてものも言えなかった。
久松の言っていることの八割方は嘘と出まかせでできている。
それが、舞が彼と知り合ってからの四年間で学んだ一番のことだった。
舞がそっと抗議の視線を送ると、彼は爽やかで迫力のある微笑みで黙殺する。
本当のことを喋ったら許さないよ?という声が聞こえて、舞は思わず溜息をついた。
本当のこと――そう、真実はいつも、久松の口から語られることとは別のところにある。
一年前、彼が帰国したのには理由がある。重く深い理由が。
当時の自分の行動を思い出すたびに、舞はよくよく感動と驚嘆を覚える。
あのときの自分は、自分でも信じられないくらい向こうみずで、行動的で――そして愚かだった。
結婚までの、決して平坦なものとは言いがたい道のりを思い、舞は密やかな追憶にふける。
忘れもしない。
二十四歳の夏、自分は久松に会うためにたった一人でアメリカに渡り―――そして、手ひどい裏切りに傷つき、泣きながら逃げ出したのだった。
【序章・終わり】




