アフターストーリー・10
久松は照れた様子もなく平然とした顔つきで、
「仕事の規模は大きかったですけど、関わる人間はわりと少なかったからスピーディーでしたね。交渉も日本人相手より直接的っていうか、テキパキ進みましたし」
「でも、商談とか全部英語でしょう?苦労しなかったの?」
百合が純粋な疑問をぶつけると、久松は軽く笑って、
「まあ、コミュニケーションを取るのに不自由しない程度には喋れたかな」
「お兄ちゃんは、大学のときに留学したことがあるんですよ。だから英語と中国語とフランス語がペラペラなんです」
恵が胸を張って鼻高々に自慢した。
その横で松尾が懲りずに首を伸ばし、
「はい!俺も英語ペラペラです!TOEIC800持ってます!」
「あ、百合さん。このお酒もう一杯もらってもいいですか?」
「ジントニックね。はい、どうぞ」
やはり無視され続ける松尾を憐れむように見つめながら、百合は言った。
千草は葵の方を向いて、
「四菱でも海外開発は行っているんでしょう?やっぱりあっちのシェアは可能性が大きいものね」
葵は知的な仕草で眼鏡を直すと、
「そうですね。ただ、経営陣は今後は欧米でなくアジア進出に重点を置きたいようですが」
「へえ……そうなの」
穏やかだが大人びた二人の会話を、舞は憧れの眼差しで見つめる。
千草とは面識がある程度であまり話したことはないが、美しく有能で懐が深く、完璧な女性だという印象があった。
ギリシア神話の女神のような姿は、舞が目指す、強く立派なデベロッパーの理想そのものだった。




