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「見送りご苦労さま」
ロビーに戻ってきた舞を見つけ、千草が歩み寄ってきた。
その後ろに葵の姿があり、舞は驚いて目を見開く。
「篠宮さん。もうお帰りになったかと思ってました」
「俺が帰ったらお前は帰りどうするんだ」
言われてみればそうだ。
行きは何も考えず葵の車に飛び乗ったが、心もとない財布の残金では到底帰り道の運賃に足りなかった。
千草は葵の肩をたたくと、明るく笑って、
「そんな怖い顔して、後輩のこといじめるのやめなさいよ」
葵が不服そうな顔で言い返す。
「さんざん後輩を――それも他社の俺をいじめてきたあなたが言う台詞ですか」
言葉こそ辛辣だったが、二人を取り巻く空気は穏やかだった。
何となく舞が一歩引こうとすると、
「それにしても、思った以上にラブラブだったわね。ロビー中の注目浴びてるのに、平気でキスしてるんだもん。それもディープよ、ディープ。お姉さんびっくりしちゃった」
千草にからかわれ、舞は真っ赤になった。
「お前が声をかけたときの、あいつの顔といったら見ものだったぞ。帰ってきたら思いっきり嫌味を言ってやる。あんな情けないツラした男を見たのは初めてだったってな」
葵がすかさず便乗し、悪戯っぽく笑った。
「篠宮さんも見てたんですか……」
「当たり前だろう」
しれっとした顔で言われ、舞は撃沈した。
ああ――もう恥ずかしくて会社に行けない。




