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「うん。よく似合ってるよ。思ったとおりだ」
得意そうに言う松尾に、恵はネックレスの鎖を押さえて震える声で言った。
「どうしてよ」
「ん?」
「何でいきなりこんなことするのかって聞いてるのよ!あんた馬鹿じゃないの?!」
怒鳴り声に松尾は目をぱちくりさせると、人懐っこく笑って、
「ああ、ごめん。ビックリさせたよね。誕生日でもクリスマスでもないのに、こんな高いもの贈られたら引くよね、普通」
「そうじゃなくて!何で私にこんなことするのかって聞いてるの!前から言ってるじゃない、私あなたのこと利用して、」
「そうそう、代わりに一つお願いがあるんだ」
松尾は恵の言葉を都合よく聞き流すと、飄々(ひょうひょう)とした態度で言った。
恵は怒りの矛先をどこへぶつけていいか分からず、唇を噛む。
松尾は胸に手のひらを当てると、照れたようにはにかみながら、
「俺のこと、できれば『あんた』じゃなくて『アキラ』って呼んでほしいんだ」
恵は呆気にとられて口を開ける。
「もしかして……そんなことのために、これ買ったの?」
「そんなことかな。俺はネックレス一つじゃ足りないかな、と思ってたんだけど」
聞きようによっては物すごい口説き文句だった。
けれど、きょとんとしている松尾を見ていたら、全然そんな気分にならなくて、恵は吹き出した。
澄み渡った夏の空に、底抜けに明るい笑い声が響く。
松尾はぽかんとしていたが、恵が笑っていることが嬉しくて自分も笑い出す。
遠ざかってゆく飛行機の遠影が一筋の雲を描いたが、二人はそれに気づくこともなく笑い続けていた。




