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ベンチに腰かけてぼうっと空を見上げていると、
「大丈夫だよ。恵ちゃん」
何の前触れもなく松尾が言う。
「はあ?何が」
冷たくおざなりな返事をした恵に、松尾は笑顔を向けた。
「久松先輩は優秀だから、アメリカでも絶対にうまくやっていける」
「そんなの当たり前じゃない」
「そして君も、もうお兄さんなしでもちゃんとやっていけるよ」
恵の動きがぴたりと止まった。
「あんたに……何が分かるのよ」
地を這うような低い声に、しかし松尾は動じなかった。
「分かるよ。だって恵ちゃんには、俺がついてるからね」
そう言って、鞄の中から長方形の箱を取り出し、恵に差し出す。
その中には、天鵞絨の青いケースが入っていた。
「開けてみて」
言われて中を開き、恵は息を飲んだ。
「これ……」
ずっと前に二人で街をぶらついたとき見た、欲しいとねだったハート型のネックレスだった。
そうっと持ち上げて見ると、太陽の光に照らされて白銀とダイアモンドが七色の光を散らす。
まばゆい贅沢な輝きに、恵は思わず口を手で覆った。
「嘘でしょ……これ本物じゃない」
「当たり前だよ。恵ちゃんに偽物なんか贈るわけないよ。そんな安っぽい男だと思われたら大変だからね」
つけてあげるよと言って松尾は恵に後ろを向かせ、そのネックレスをかけてやった。




