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「無事に帰ってきてください。お仕事の成功を、心からお祈りしています」
久松はようやく夢から覚めたような顔つきになって、しっかりと頷くと、二本指を立てた。
「二年でいい。俺のことを信じて、待っていてほしい。必ず帰るから」
「久松さん……」
久松を見上げる舞の目が潤む。
彼の口から二年という言葉が出てようやく、本当にこの人は行ってしまうのだと実感した。
「そうしたら、俺はもう二度と君の傍を離れない。約束するよ」
真剣な瞳で言うと、「君が嫌だと言ってもね」と久松は笑ってつけ足した。
舞は大きく頷く。
今はそれで十分だった。この人は口にしたことは必ず守る人だ。
彼がこう言うのだから、きっと必ず帰ってきてくれるのだろう。
「それと、もう一つ」
久松はそ舞の腰に手を回すと、息がかかるくらいの距離に引き寄せた。
驚いている舞に、悪戯っぽい笑みで告げる。
「もう一回、さっきのアレやって」
「え?」
さっき久松は二本指を立てた。
「二年」という意味ではなく、「二つ」お願いがあるという意味だったのか。
さっきのアレって――舞は恥ずかしさにどぎまぎと顔を赤らめる。
「えっと……さっきのやつは、つい勢いでというか……その」
「お願い」
久松はにっこりと笑って首を傾げる。何だか罠にはめられた気が、しないでもなかった。
こうなれば一度も二度も一緒だと思い、舞が軽く唇を重ね合わせた瞬間、久松は舌を入れてここぞとばかりに濃厚なキスをしてきた。
舞は慌てて逃れようとするが、腰と頭に腕を回され、がっちりと固定されているので離れられない。
誰かがひゅうと口笛を吹く音がした。白い目と冷たい視線が注がれるのが分かる。
ようやく解放されると、舞は恥ずかしさに泣き出しそうになりながら、
「もう、久松さん!!ふざけないでください。あなたって人は最後の最後まで――」
久松は「ごめんごめん」と笑う。
その笑顔を見ていると、舞はようやく元の彼が戻ってきたような気がした。
久松が搭乗口に吸い込まれるようにして消えていくとき、舞は手を振りながら言った。
「いってらっしゃい」
その声は人ごみにかき消されてしまったが、久松は聞こえたのか振り向き、舞のほうだけをまっすぐに見つめて「行ってきます」の代わりに言った。
「――愛してるよ」




