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「もう少しだけ、私と一緒にいてください」


「舞」


舞の耳元で、ようやく久松は声を出すことができた。


確認するように、何度もその名前を呼ぶ。


雪のように淡く消えてしまいそうな姿を、きつく抱きしめたまま。


「もう少しだけなんて言うなよ」


何と心細く震える声だろう。久松はすがりつくのをやめられなかった。


舞は抱きしめられたまま、久松の頬に手を伸ばす。


安堵あんどしたように言った。


「よかった。泣いてるんじゃないかと思ったから」


そのとき、静寂を破ってアナウンスが響き渡る。


『十五時十分の、東京発、ニューヨーク行ユナイテッド航空007便にご搭乗がお済みでないお客様は、至急六番ゲートまでお越しください。繰り返します……』


「行ってください」


舞は久松の胸を両手で押して、自分から体を離した。


久松は途方に暮れた眼差しで、


「どうして」


「私はあなたと一緒に行くことはできません。叶えたい夢があるから」


その瞳はどこまでも誇り高く、決して揺るがぬ光を宿していた。


「なら、俺が」


久松を優しく遮り、舞は首を振って微笑んだ。


「だから、あなたの帰りを待っています。――何年でも」


そのとき舞は、驚くべき行動に出た。


久松の服の裾をつかみ、つま先立ちになって、みずから唇を重ねたのだ。


通行人の視線が一斉に突き刺さる。


舞は頬を赤く染めながらも、硬直している久松を見て、痛快な気分だった。

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