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空港で車を降りた舞は、葵に言われたとおりロビーへと向かった。
人波の中を必死でかきわけ、人影の一つひとつに目を凝らす。
しかし、久松の姿はどこにもなかった。
百合は久松がどの便で発つかまでは言わず、大まかな時間と行き先を教えてくれただけだ。
もしかしたら、もう久松を乗せた飛行機は空高く飛び立っているかもしれなかった。
荷物も持たず息を切らしながら走り続ける舞の姿に、周囲は不審な視線を注ぐ。
それすら気にならないほど、舞はただひたすら久松の面影を追っていた。
会いたくて会いたくて仕方なかった。
久松さん、どこ。
どこにいるの?
そのとき、ぱっと目を惹く華やかな美人の姿が目に入り、舞は思わず駆け寄っていた。
「千草さん」
声をかけられた女性は、驚いたように目を大きく見開いている。
やっぱり千草さんだ。
ホテルで会ったときに一度見たきりだけれど、忘れるはずがない。
すらりと背が高く、透きとおるような肌と、きらめく髪、輝かしく整った顔立ち。
「あなたは?」
千草は舞のことが分からないらしく、戸惑ったように尋ねた。
「私、小林舞です。四菱地所のデベロッパーです」
膝に手を当て、ぜいぜいと喘ぎながら、舞は絞り出すように言った。
「あの、久松さんがどこかご存じありませんか?」
今にして思うと突然何を聞いたのだろうと思う。
千草が全くの別件で空港を訪れていたなら、この質問には面食らっただろう。
けれど、そのときは、そんなことに気を回す余裕などなかった。
千草は、とるものも取りあえず走ってきた舞を見て、素早く真相に気づいたようだった。
目を細めて微笑むと、軽く背をかがめて舞の両肩に手を置き、
「なるほど。あなたが久松君の彼女ね」
舞は当惑した表情で否定しようとする。
だが千草はそれを聞かず、舞の手を取って走り出した。
「いらっしゃい。私が案内してあげる」




