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「俺がお前に協力したのは、クラブ百合への恩を返すため……そしてお前に、きちんと謝ってけじめをつけるためだ。だからこれは、俺の勝手な都合だ。お前が負い目に感じる必要は一切ない」
舞は涙をこらえて頷くので精一杯だった。
百合さん――ありがとう。
あなたの深い優しさが、この人を動かした。
そして葵の不器用な真心が、前に進む勇気を与えてくれる。
「篠宮さん」
舞は目の端を拭うと、おどけたように手の平を額に立てて敬礼し、微笑んだ。
「監査役室室長就任、おめでとうございます」
葵は切れ長の目をかすかに見開くと、力強く笑った。
「――ああ。俺は上へ行く。なすべきことをなし、果たすべき責任を果たすために」
誇らかな眼差しに、舞は目を細める。
「きっとできます、あなたなら。あなたは、人の上に立つべき人ですから」
「同じことを言うんだな」
葵は呟いた。
きょとんと首を傾げる舞の頭に手を置き、
「もうお前のそばで、お前の成長を見守ってやれないのが残念だ。社内で口さがないことを言う連中もいるだろう。だが俺は、お前なら必ず乗り越えられると信じている」
舞は思わず両手で顔を覆った。
どうしてこの人は、こんなにも誠実で優しいのだろう。
裏切り、傷つけてなお、自分を思いやってくれる懐の広さが頬を濡らす。
「昇りつめろよ。俺は、先に行って待っている」
「はい、必ず。必ずそこまで辿りついてみせます」
きらめく舞の瞳と、声に宿る確かな覇気を確認し、葵は満足げに笑った。




