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「お前と別れた後、俺はクラブ『百合』へ行った」


舞は驚いてぱっと顔を上げる。


「どうしてあの店を選んだのか分からない。取引先の人に連れられて、一度訪れたことがあるだけの店だった。だが、なぜか足が向いた」


百合は黙って飲んでいる葵を、そっとしておいてくれた。


その心遣いが身に染みたと葵は言った。


「帰り際、彼女は俺にこう言った。

『疲れたときは、いつでもここに来て羽を休めればいい。だけど、ここはお店だから、みんな家に帰らなきゃならない。そして明日になれば、また世間の荒波ってやつと戦わなきゃならない。それを分かっているから、女の子たちはとびきりの笑顔であんたたちを癒すの。

ここは誇り高き戦士たちの休息の場所だ、逃げ場所じゃないんだよ』と」


現実から目を背けて逃げ回る人間に、笑顔やサービスを求める資格はない――と。


百合さんらしい。あまりにも。


胸が温まる。


「全てを見抜かれていたと思ったよ。自暴自棄じぼうじきになっていた俺を、彼女は厳しくたしなめた。俺はそれが悔しくて、意地でも立ち直ってもう一度あの店に足を運んでやろうと思った。

おかげで、何とか踏みとどまることができた」


その言葉を百合に聞かせたいと思った。


きっと百合は、「あら、そんなこと言ったかしら。覚えてないわ」と綺麗な笑顔でとぼけるだろうけれど。

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