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葵は自嘲ぎみに続ける。
「だがそれは、ただ父親に反発したい一心でやったことで、本当の俺の意思じゃなかった。俺は父親から逃れたいあまりに、父親の望む反対の道を行くことだけが、いつの間にか唯一の価値基準になっていた。それでは父親の言うことを聞くだけのでくのぼうと変わらない、空っぽの人生だと気づかずに」
繊細な光が、葵の瞳の中で揺れている。
その美しい輝きには二度と触れられないけれど、舞はそれをとても愛おしく思った。
「俺はわざと、父親が言うのとは別の女性を選び続けた。もちろん、どの女性も深く愛していた。理解しようとしていた。だが、本当にそれが俺の意思で選んだことなのか、選ばされていたのか、情けないことに今となってはそれもあやふやだ」
舞はようやく葵が告げようとしている真実に触れ、かすかに心が痛むのを感じた。
「私も、篠宮さんにとって、お父様と対抗するための手段の一つだったんですね」
「すまない」
葵は潔く詫びた。
否定したかったに違いない。舞を愛した気持ちは本当だと。だからあれほどまでに傷ついたのだと。
肩の線が強張り、唇は何か言いたげにかすかに動いていた。
けれど葵は、とうとう否定しなかった。
「謝ることなんて何もありません。篠宮さんは何も悪いことをしていません。
謝らなくちゃいけないのは私のほうです。自分勝手な気持ちばかり押しつけて、傷つけて……その上さっさと逃げ出したんですから」
抱えきれなかった。支えることができなかった。
それこそが、自分が葵に釣り合わない証拠だった。




