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涼やかな声に振り向くと、立っていたのは、先程のセミナーを統括していた人事部採用担当の男性だった。
「わたくし、四井不動産人事部採用担当の久松と申します。先程はセミナーにご参加いただき、ありがとうございました」
光り輝くような笑顔で言われ、二人は気まずく頭を下げる。
遠目からでもイケメンだと思っていたが、近くで見るといっそう水際立った面差しである。
すらりと背が高く、身のこなしも機敏で、話しぶりにも聡明さがにじみ出ている。
にも関わらず、威圧するような雰囲気は感じられず、あくまで穏和な姿勢で、
「この会場、僕達も時間制で借りているので、そろそろ明け渡さないといけないんですよ。大変申し訳ありませんが、ご退出いただけないでしょうか」
「あ、ハイ。すみません」
男子学生はばつが悪いのか、しどろもどろになり、鞄を抱えて逃げていく。
舞も出ていこうとしたが、
「小林さん」
愛嬌のある微笑みで、久松は言った。
「こっちのエレベーターに乗って、2階の出口から出た方がいいですよ。待ち伏せされてるかもしれないから」
どこか面白がるような表情に、やり取りを聞かれていたことを悟って赤面した。
「あの、どうして」
「ん?」
「どうして私の名前を?」