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「本当だな。やっと気づいたよ。俺ってとんでもない馬鹿だったんだ」
久松の瞳が透明に澄み渡っていく。
百合は目を見開いた。
そして、ここまで久松を変えてしまった舞に、内心で畏怖の念を覚える。
「忙しいのに、話を聞いてくれてありがとう」
久松は財布から一万円札を数枚取り出すと、テーブルに置いて立ち上がった。
百合はその腕をがしっと固定するように握りしめる。
「見くびらないでと言ったでしょ。お代は結構。そのかわり、次に来るときはもうちょっとましな顔で来てね。しけた顔されると、店の空気が暗くなるのよ。うじうじ泣き虫はあやめだけで十分」
からっとした笑顔で言い切る百合に、久松は苦笑した。
「そうするよ。ただ、次に来るのは多分、ずっと先のことになると思う」
百合がはっとした顔をした。
――まさか。
久松の袖をつかみ、耳元で鋭く問う。
「出立はいつ。いつなの?」
久松は短く言った。
「明日」




