表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
196/292

196

「それから俺はあの子を記憶から消そうとした。いつもしてきたように、忘れることに専念したんだ。今まで付き合ってきた子はどんなに好きになっても、二、三日もあれば切り替えて次に進むことができた」


「でも今回は違った?」


そうだ、と久松は言って、両手で頭を抱えた。


「駄目だったんだ。どんなに努力しても、舞の姿が頭から離れない。あの子が他の誰かに奪われると思うと、胸が焼けついて夜も眠れない。今まで簡単にできていたことができない。どうやったら忘れられるのか、全然分からないんだ」


助けを求めるような瞳が百合をとらえる。


百合は目を細め、久松の手に自分の手を重ねた。


「そう。あなたようやく、人の痛みを知ったのね」


百合は久松に向かって人さし指を突きつけると、


「私、あのとき言ったわよね。最後に選ぶのはあやめ自身だって」


久松は初めてこの店を訪れたときのことを思い出して、ゆっくりと頷く。


あの頃の自分が今の自分を見たら、何と言って笑うだろう。


情けないなと見下ろす瞳が容易に想像できる。


「ああ。だけど俺は、心のどこかであの子のことを甘く見てたんだと思う。素直で従順だから、いつか俺のことも許して、愛してくれるようになるだろうって」


言いながら、久松は強く恥じ入った。


自分の人生で、ここまで恥ずかしく惨めだったことはなかった。


何でもそつなくこなし、全てが順調だったからこそ、頭を打った時のショックは計り知れなかった。


「この俺が本気で好きになったんだ、上手くいかないはずがないと思ってた」


あまりにも正直な本音に、百合は呆れて肩をすくめる。


「大した思いあがりね」


久松は笑った。今度は、少しだけ柔らかい表情で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ