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「……駄目だったんだ」
百合はこの期に及んで何のこと、と聞くような無粋な真似はしなかった。
「そう。でも、だからって死ぬようなことじゃないわよ。皆そうやってもがき苦しみながら、ちゃんと乗り越えているんだから」
辛いのはあなただけじゃないのよ、と百合は優しく諭す。
まさか死ぬような馬鹿はしまい。
分かってはいたが、あまりに落ち込んでいる久松の姿を見ていると、一抹の不安がよぎるのも事実だった。
傷ついて弱っている姿でさえ美しく、どこまでも母性本能をかきたてられるから始末が悪い。
百合はお節介を焼いている自分に内心舌打ちしながら、努めて明るい声を出した。
「やっぱり、今日はぱーっと呑みましょうよ。嫌なことは全部忘れて」
「そうじゃない」
久松がかすかに、だがはっきりと言ったので、百合は怪訝な表情をする。
「何がそうじゃないの?」
久松は組んだ両手を膝の上に置くと、静かに目を伏せた。
「駄目だったっていうのは、舞と上手くいかなかったって意味じゃないんだ」
「あら、そうだったの?まぎらわしいことしないでよ。あなたが幽霊みたいな顔しているから、私てっきりふられたものかと」
久松はかすかにだが、ようやく笑った。
いつもの自信に満ちた笑顔からは、かけ離れたものだったけれど。
「いや、ふられたんだけどね。それはもうきっぱりバッサリと。でもそれは、予想の範疇っていうか……そのこと自体に落ち込んでいるわけじゃないんだ」
久松の心意が汲み取れず、百合は首を傾げた。
「じゃあ、何が駄目だったの?」
久松はテーブルに置かれたコップの水をぐいと飲み干すと、息を吐いた。
両手を組み合わせる。
そうしなければ正気を保てないとでもいうかのように。




