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数週間後、クラブ『百合』を訪れた久松の姿を見て、百合は仰天した。
「爽ちゃんったら、なんて顔してるのよ」
久松はまるで落ち武者のように悄然としていた。
立っているのもやっとといった様子で、倒れ込むようにして革張りの豪華なソファーに腰をおろす。
「百合さん」
脇から顔を出したホステスに、
「ああ、山崎さんね。ちょっと待って。後で行くから、牡丹を先につけておいて。あの子なら上手くやってくれるから」
指示を出し終えると、百合は久松の隣に腰かけた。
久松は声も出ないのか、テーブルに視線を落したままうなだれている。
「……とりあえず、何か呑みます?気が晴れるわよ」
「ありがとう。でも、今日はいいよ。すぐに帰るつもりだから」
老婆のようにしわがれた声が言った。
久松の表情には落胆の色が濃く、問いただすまでもなく彼の恋の結末を物語っていた。
百合は深く追及することはせずに、「そう」と優しく言った。
「今日は百合さんにお礼を言いに来たんだ。お世話になった、お礼を」
「いやだわ、湿っぽい。うちの店でそういう辛気臭いことを言うのはやめてくれる。鏡見てみなさいよ。あなたの顔、まるでお通夜みたいよ。情けない」
そういえば、千草にも似たようなことを言われた気がする。
この自分が、呼吸するように自然にできていた表情のコントロールまで失うなんて。
いかに打撃を受けているかを悟って暗澹たる気分に陥る。
「……みっともないな、俺」
額を押さえてうめくように言った。




