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舞はくしゃりと泣き笑いのような顔をして、久松の手をゆっくりとほどいた。


「こんなの久松さんらしくない。久松さんはもっと……悪だくみばかりして、何を考えてるか分からなくて……私なんかに、そんな真剣な顔するわけないんです。


だから……やっぱりこれは嘘なんです」


嘘でいい。嘘であってくれと舞は願った。


本当だったら、どうしたらいいか分からないから。


考えただけで心が壊れそうになるほど、怖くて怖くてたまらないから。


胸が潰れる。息が苦しい。久松の顔がぼやける。


「どうしても信じてもらえないのか。それが君の答えなのか」


久松の声が無惨むざんにひび割れる。


舞はもう、久松の顔を直視することができなかった。


「久松さんは私じゃなくたって、他にいくらでもいい人がいます。きっと」


受け入れられない。こたえられない。


今まで誰にも見せずに守ってきた心の最も深い部分を、久松はこじ開けようとしている。


舞の中に入ってこようとしている。


それが分かるからこそ、恐ろしくてならないのだった。


葵とは違う。他の誰とも違う。


この人は――この人だけは。


「だけど、私は違う。あなたのこと……好きにはなりません」


心を守るためには、引きずられないためには、自ら手を離すしかない。


舞は胸に浮かんだ感情を見もせずにぴしゃりとふたをした。


久松は一つ一つの言葉を噛みしめるように沈黙すると、やがて言った。


「そうか。……分かった」


舞の潤んだ瞳を見つめ、きびすを返す。


「ありがとう。どうか元気で」


普段とは違った様子がひっかかり、舞はわずかに久松の背中を追いかける。


だが久松は一度も振り返ることなく、夕闇に霞む街へと消えていった。























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