19
午後6時。
オフィス街の雑踏を、舞はふらつきながら歩いていた。
リクルートスーツに身を包み、薄化粧した顔はかすかに青ざめている。
ヒールの低いパンプスが、力なく地面を打つ音。
先程からひどい頭痛と、めまいと吐き気が波のように襲いかかってきていた。
原因は分かっている。昨晩の仕事だ。
お客様がやたらと呑ませたがる人で、本人も酒豪だった。
彼のペースで呑み進めると、常人ならあっという間に意識を失ってしまうような、むちゃくちゃな呑み方だった。
席についたのは鈴蘭と、若葉というヘルプに、舞だった。
2人は酒に強く、勧められるままに杯を空けても平然としていた。
だが舞は、お客様の呑みっぷりを見て血の気が引いた。
つき合っていたら身がもたない、そう思ったが、ホステスが酒杯を断るなど言語道断だ。
どうあっても、強い酒を大量に摂取することは避けられなかったのである。
結果的に舞は10杯以上のウォッカやスコッチを飲み、二日酔いに陥っていた。
整然と並び立つオフィスビルは、どれも同じ顔でつんと澄ましていて見分けがつかない。
地下鉄の出口を間違えたのか、歩いても歩いても迷宮のようで、目的地にたどりつける気がしなかった。
視線を上げれば、灰色の町並みがあざ笑うように見下ろしてくる。
就職活動中に見る空は、どうしてこんなに暗く淀んでいるのだろう。
舞が目指しているのは、四井不動産東京本社ビル。
丸ノ内の一等地にある、歴史を重ねた風格と機能的な洗練を兼ね備えた建物である。
舞はそこで、本日6時30分より、とある社員とOB訪問をする予定であった。
足元がふわふわしていておぼつかず、視界は靄がかったようにぼやけている。
気分が悪くて今にも倒れそうなのだが、欠席の連絡を入れようにも電話番号が分からなかった。
口の中がじわりと苦くなる。
冷や汗が背中を流れ、心臓が信じられないくらい大きな音で鼓動している。
一歩進むたびに、諦めてしまおうかと考える自分がいる。
四井不動産に内定することなど、夢のまた夢だ。
そもそも、人事の久松に弱味を握られている時点で、可能性はゼロに近い。
なら、帰ってしまえばいいじゃないかと悪魔の声が囁く。
だが、これを蹴ってしまえば、選考の望みは完全に絶たれてしまう。
久松の耳に入れば、迷惑をかけたことへの嫌味の一つや二つくらい言われるだろう。
いや、それだけで済むとは思えない。
おぞましい想像に震え、舞はよろめきながら必死で歩き続ける。
――デベロッパーになることは、父から託された使命だった。
魅力的な職業だと思う。
きっと、何物にも代えがたいやりがいを得られるだろう。
が、それ以上に、父との約束を果たしたいという思いが舞の胸にあった。
大規模な開発を手がけ、誰もが認める有名なデベロッパーになれば、もう一度父に会えるのではないか。
そんな淡い希望が、今の舞にとってすがれる唯一のものだった。
前も見ずに歩いていた舞は、目の前の人影と思いきり正面衝突した。




