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「葵様。矜持きょうじをお持ちになることは大切だと思います。しかし、恐れながら、私にはあなたがその矜持という言葉に逃げ、現実から目を背けておられるように思われます」


鋭い警句が耳に突き刺さる。


片桐は片手で自分の肩を押さえ、震えをこらえながら、必死に葵を見上げていた。


「あのような偉大な方をお父上として持つことが、どれほどの重圧かは測り知れません。しかし、あなたはそのプレッシャーや不安に耐え、責務をまっとうすることができるだけの能力と才覚をお持ちです。そして選ばれた人間はそうでない人間のために、その権力を正しく使う義務があるのです」


葵は頬を張られたような表情をした。


誰に言い聞かせられなくとも、自分が一番よく分かっている。


そう思って、こういった類の忠告は耳に入れなかった。


望んだわけではない境遇や才能をうとましく思っていた。


どれほど贅沢なことか分かっていても、目の前を見ればはるかに続いてゆく決められた道に絶望した。


自分がどんな生涯を送るか、父親の姿を見れば分かる。


きっと息をつく暇も心の休まる時間もなく、手のひらには何も残らない、つまらない人生になると。


それを正面切って葵に主張したのは、恐らくこの女性が初めてだった。


「四菱の名を背負ってください。重責を受け入れてください。あなたにはその資格と、責任があります。その上で、倉之助様のなさることが間違っておられると思うのなら、真正面から挑めばいい。自由が欲しいと思うのなら、全てを放棄なさればいいのです。

あの方と同じ立場に立ち、同じ景色を見てください。文句を言うのも反発するのも逃げるのも、それからで十分です」


片桐は珍しく興奮しているのか、頬を紅潮させ、肩で息をしながら言い切った。


葵は目を細めて低い声で言った。


「ここまで俺に喧嘩を売った奴は、多分お前が初めてだ」


「覚悟はできております」


頭を下げた片桐の肩に、葵はそっと手を置いた。


「すまなかった」

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