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仕事を終えた久松は、まっすぐ帰路にはつかず、クラブ『玉響』へ向かった。
最近では週に1、2回のペースで通うことが習慣になりつつある。
指名など取れたためしのない新人ホステスの接客は、当然ながら満足のいくものではなかった。
が、久松は他の客のようにホステスを口説くために店に通っているわけでも、癒しを求めているわけでもなかった。
彼はいわば、彼女を観察しに来ていた。
自分の支配下にある人間が、どのような行動を取るのかが興味があった。
舞の人格や内面には全く関心を持たなかった。
「あやめ。ご指名よ」
控え室にいた舞は、百合の声にびくりと顔を上げた。
「久松さん、随分ご執心みたいね。しっかりやりなさいよ」
百合は屈託なく舞に笑いかける。
「百合さん」
舞は席を立ち、はずみでドレスの裾を踏みつけて転びそうになる。
百合が慌ててそれを受け止め、支えてやった。
「どうしたの。顔色が悪いわ」
百合は舞の額に手のひらをを当てて、
「熱はないみたいだけど。体調が悪いなら、無理しちゃだめよ」
舞は強くかぶりを振った。
「一緒に私の席についてもらえませんか?」
「え」
百合が目をみはる。
横を通りかかった牡丹が、小馬鹿にした口調で、
「いい度胸してるのねえ。天下のナンバーワンホステス・百合様にヘルプを頼むなんて」




