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「どうせ女でしょ?」
アイスティーをかき混ぜながら、千草はそっけなく言った。
久松は整った顔をくしゃりと歪め、複雑な笑みを浮かべる。
「そういうんじゃありませんよ。ただ」
「ただ?」
「ちょっと、面白いものを見つけたんですよ」
久松の瞳に、のんびりとした昼下がりにそぐわない、不穏な輝きが宿る。
「そう」
久松は追及を逃れるためか、手早く食事を済ませる。千草は笑顔で釘を刺した。
「何でもいいけど、仕事に支障がないようにしてよ。あと社内の女に誰彼かまわず手を出すのもやめてね。トラブル処理にこっちが苦労するはめになるんだから」
「他人事みたいに言うんですね」
パスタをフォークに巻きつけながら、久松は涼やかな瞳で言った。
千草は妖艶な笑みを浮かべると、
「他人事だもの。私にとってはね」
久松は千草をじっと見つめる。
千草は視線をかわすように席を立った。




