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第❶話 落ちてたぬいぐるみ



安田青太(やすだ あおた)は、丸メガネをハンカチで拭いていた。


キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン。

チャイムが鳴ったので、丸メガネを装着する。


柔道部が試合前に道着の帯を締めなおすような感じで、

青太は授業前にはいつもメガネを拭いてから挑むことにしている。


青太は六人用の美術テーブルに座っている。


六限目の授業は美術だった。

青太が所属している『ホラー研究部』の部室は、この美術室の『美術準備室第2』を使わせてもらっているので、美術室は授業だけに限らず頻繁(ひんぱん)に訪れる場所だった。


教室前方の黒板の前に立っている

美術教師の熊谷(くまたに)先生は長そでのシャツにエプロンをしている。

ポニーテールのヘアスタイルで、化粧っけは少ないが、美人と呼んでいい顔立ちだ。

エプロンは色んな色の絵の具がびっしりついていた。


「はぁ~い。みんな、今日は前から言ってたみたいに立体制作をします。素材は、粘土・布・段ボール・木材なんかから選んでください。作るものは自由です」


熊谷先生は薄い桃色をした唇を動かしてそう言った。

教室前方にあるテーブルに置いてあるさまざまな材料を生徒に見せた。


すると、そこで速水(はやみ)なずなは手をあげた。


「先生! 自由っていうのは何でもいいんですか?」


「はい。みなさんには自由という題目で考えてほしいんです」


そして授業が開始され、各自みんな何を作るか考える。

周りと相談するものもいれば、すでに作業に取り掛かっているものもいる。



青太は、自身が好きなゲームに出てくるキャラクターの『ぴょん太郎』というウサギのぬいぐるみを作ることにした。

以前、公式ホームページからサッカーボールサイズのぬいぐるみを購入したのだが、

ある事件があって紛失してしまった。


だから、青太はソフトボアの生地を使って『ぴょん太郎』を作ることに決める。


「ねえ~! 青太!」


そこへなずながやってきた。

青太は周りの視線が気になってしまう。

二人はクラスでも恋人同士として認知されているが、

クラスでも明るい人間として友達の多いなずなと、クラスでも根暗で友達のいない青太がどうしてカップルになったのか不審がるものは結構いる。


だから、青太はいつも授業中や休憩中になずなから話しかけられると困った。



「ど、どうしたの?」


「青太は何を作るの?」


「ぼ、ぼくは……『ぴょん太郎』を作ることにするよ。なずなは何にするの?」


「わたしはそうだね、制作するとなったら、やっぱりフランケンシュタインだよね!」


「ひ、ひぃ……」


「フランケンシュタインって人間の死体をつなぎ合わせて作るんだよ。そんなもの美術の制作で作ったら怒られちゃうかな」


と、なずなは笑った。


青太はため息をつく。


「そんなこと言ってないで早く作れば? それじゃなくても、なずなは美術の点数良くないんだから」


「ふん。そんなこと言うんだったら、手伝ってあげないよ」


「ぼくはこう見えて意外と器用なんだ。縫物とか嫌いじゃないし」


そんなこんなで、

美術の授業中に青太は簡易的ではあるが

『ぴょん太郎』のぬいぐるみを完成させた。


大きさは手のひらサイズほどだが、

完成度は高く、周りに座っているクラスメイトから「凄いねえ」と褒められた。



キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン。

美術の授業が終わる。


熊谷先生が

「完成した人は提出して帰ってください。なお、まだ完成していない人は宿題です。明日の朝一番に職員室まで提出に来るようお願いします。では授業終わりです」



青太は筆記用具などを持ち、

1年D組の教室に帰ろうと席を立った。


そして、なずなはどうしているかと

ちらとなずなが座っている方を見たら……


なずなは焦った顔で

せくせくと紙粘土をこねていた。

手は粘土のせいで白くなっており、

手元で作っているものは何だかよく分からない。



「え~と、速水さん。もうチャイム鳴ってるし、宿題で持ち帰ってね?」


「先生、この紙粘土、固まってないから持って帰るにも難しくて」


「じゃあ、居残りでやって帰れば?」


「それは無理なんです。熊谷先生。今日はバイトなんです」


「速水さんってバイト何してるの?」


「回転寿司屋のホールです」


「ふうん。ハハハ。忙しそうだね」


「そうなんです。だから、提出期限を少し伸ばしてもらえると……」


「それはダメよ」

熊谷先生はきっぱりと言った。



放課後。

1年D組でホームルームを終えて、

青太となずなは教室を二人で出てくる。


今日はなずながバイトの日なので

『ホラ研』の部室には集まらず帰る日だった。


なずなはビニール袋にべちゃべちゃの紙粘土を入れて

手に持っている。


「な、何を作ろうとしてたの?」



自転車で並走しながら、

一緒に走っていると、急になずながブレーキをして止まった。

電信柱のそばにある地域のゴミ捨て場だった。


「ちょ、これ! 見て!」


ゴミ捨て場には、クマのぬいぐるみがあった。

きれいな状態で新品のような見た目をしている。

そのクマは首のところに赤いスカーフがまいてあった。


「ぐふふふふふ」


なずなはそのぬいぐるみを見てニヤついている。

青太は「また、なずなが変なことを考え出している」と苦笑した。



episode2が始まりました。

ゴミ捨て場のぬいぐるみを拾って、なずなは何を考えているのでしょうか?

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