第❸話 赤いレンガ造りの旧図書館
安田青太や速水なずなが住むのは、
『くび市』という人口27万人のそれなりに大きな街だ。
漢字で書くと『九尾市』となる。
九尾市はオカルト好きの間では怪奇現象が起こりやすい土地として有名だ。
その起源については戦国時代とか、
大昔からの歴史にさかのぼるらしいが…………
その真相について深く知る者はあまりいない。
オカルト好きの間では、
『なまくび市』と呼ばれている。
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そんな九尾市の中の一番大きな図書館の裏にある
旧図書館は赤いレンガ造りの建物だった。
青太からすれば
取り壊しを待つだけの古い建物という認識だったが
まさかそこで映画が上映されるとは……
という気持ちだった。
美術部員の好奇の視線を浴びながら
美術室を二人は出ていく。
そして階段をおりて、下足場へ向かい、
上靴からスニーカーに履き替えて
駐輪所へ二人並んで歩く。
「ほら、これ見て」
なずなはチラシを一枚見せてきた。
青太はそのチラシを受け取る。
そこには、確かに『九尾市 旧図書館で映画上映会!』となっており、『血みどろの湖畔』のジャケットが載っていた。
左目のところだけ穴を空けた麻袋をかぶり、
裸の上からオーバーオールを着ている巨漢……。
手にはオノを持っている。そのオノからは真っ赤な血がしたたっていた。
「ヒィィィィィイイイイィイィ……」
「楽しみだね。青太♡」
と、なずなはぶりっこ調で言ってくる。
「……何だか頭が痛くなってきた」
青太はくらくらとした表情をしてみせる。
「うん大丈夫。頭痛薬、常備してますから!」
なずなは舌をぺろっと出してブイサインをした。
「いつでも飲めるように、コンビニで水を買っとこうね♡」
どうやらホラー映画を回避する方法はないらしい……。
駐輪所のとめてある自転車の場所は別々だったので、
青太は一人になって自身の自転車の場所へ向かっていると……
「おお、なずなぁ」と女子の声がする。
青太はそれを離れた場所から見る。なずなの周りを複数の女子が囲んでいる。
そして何やら談笑していた。
なずなには友人が多い。軽口をしゃべり、笑い声があふれる。
自分の環境との違いに、青太はなずなのことを凄いなといつも思う。
青太には友人と呼べる人間は少ない。
というか、いないと言ってもいいかもしれない。
なずなはどうしてこんな自分のことを好きになってくれたのか……。
どうしてこんな自分のことを好きでいてくれているのか……。
そんなことを考えていると、
うつうつとふさぎこんだ気分になってくる。
穴を掘って穴を掘ってずんずんと沈んでいくような気分になる。
「青太ァ! 早く行くよ!」
青太はハッとする。
なずなの問いかけに現実に戻る。
今の青太にとって、なずなの存在は大事な≪現実≫だった。
自転車で二人並びながら走る。
二人が通う文王高校から旧図書館までは、自転車で15分ほど。
旧図書館に着く。
通りの表側にある新図書館の影に隠れており、
ひっそりとした空気がただよっていた。
「なんか、急に肌寒くなったね」となずなが言う。
影になっているからとはいえ、
確かに、ぐっと気温が下がったように思えた。
旧図書館の入口はガラス戸になっていた。
しかしそこから見るには中は暗く、開館しているようには見えない。
「やっぱりおかしいよ。旧図書館はもう使われてないはずだ」
「いやでもこのチラシに」
そのチラシには確かに旧図書館となっており、年月日の日付も間違っていない。
「それどこでもらったの?」
「ホラ研ボックスに入ってた」
「ホ、ホラ研ボックス?」
「校舎のいたるところにホラ研の投書箱を設置したの。怪奇現象、霊現象、何でもござれって感じで」
「か、勝手にそんなことやってたんだ……」
「そこに入ってたんだよね」
「誰かのイタズラじゃないかな……」
と、青太が言ったとき、ギィィィィィと旧図書館のガラス戸が開いた。
扉を開けたのは、
若い女性だった。二十代半ばくらいだろうか。
長い前髪で片眼は隠れているが、美人であることは明白な顔立ちだ。
「映画、ですか?」
と、その女性は言った。
「はい! そうです。『血みどろの湖畔』を観に来ました!」
「もうすぐ始まりますよ」
「早く行かないと、ほら、青太行くよ!」
なずなに手を引かれて、青太は動揺しながらも連れていかれる。
前髪で片眼を隠した女性を先導に二人は旧図書館へ入っていく。
バタンッ!
ガラス戸は勝手に閉まる。
ガチャン!
誰もそこにはいないので施錠がされる。
旧図書館に入っていった二人……ドアが勝手に閉まりました。
明らかに、ホラー現象が起こりそうな予感です。
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