第❷話 映画デート
速水なずなは顔にかぶっていた麻袋を取った。
「青太、ごめんね」
なずなは心配そうに
倒れている安田青太に顔を近づけた。
青太はなずなの顔がすぐそばまで来たことに照れてしまい顔を赤くする。
なずなの顔にある薄い色のそばかすが鮮明に見える。
「青太にはちょっと刺激が強すぎたね」
なずなはすでに学生服に着替えていた。
大きな胸をさらけ出していたオーバーオールは畳まれてテーブルの上にある。
「し、刺激が強いって……それはどっちの意味だよ」
青太は起き上がり、そうつぶやいた。
ずれた丸メガネをくいっと直す。
「どっちってどういうこと?」
「なずなはぼくにエロアクションを起こしたつもりかもしれないけど、ぼくからすればそれはホラーでしかないって」
「そんなこと言いながら、しっかり鼻血出してたじゃん」
青太は苦笑するしかなかった。
「ていうか、この本何なの?」
なずなの手には、
青太が図書館から借りてきた『学校のちょ~こわい話6』があった。
「あ、そ、それは……!」
「青太さぁ~、ホラー耐性つけるためだからって、小学生が読むような本ってのはどうかと思うよ。まあ、これはこれで名著がたくさんあるから楽しいんだけどね」
「で、でもぼくはこれも……ちょっと難しいかも」
「ねぇ、青太。どうしてわたしがこんなコスプレしたか分かる?」
そう言ってなずなは麻袋と脱いだオーバーオールとオノを見せてくる。
ついさっきまでの、
それらを装着していたなずなを青太は思い出して身震いする。
「……ぼくにホラー耐性をつけるため?」
「ま、それもあるけど、正確には違うよ。実はこのコスプレってある映画の登場人物なの」
「そ、それは知ってるよ。有名な映画だ……」
「怪力で無口な殺人鬼。湖畔でイチャつくカップルやドラッグで遊ぶ若者に忍びよって残忍な殺し方で楽しむ殺人鬼……『血みどろの湖畔』はホラー苦手な青太でも知ってるよね」
なずなは笑った。
「し、知ってるけどそれがどうしたの……?」
「その映画がまさかの市の旧図書館で公開するんだって」
「まさかそれを一緒に観に行こうなんて言うんじゃ……」
「映画デートしようよ」
「うぴゃああぁぁぁぁぁあ……い、いやだ! 絶対にいやだ!」
「何でよ。わたしのコスプレで免疫がついたでしょ?」
しかし、今の青太に思い出せたのは、オーバーオールのひもが外れてぽよぽよと揺れていたなずなの大きな胸ばかりだった。
「む、無理だって」
「何で顔赤くなってんの? ま、まさかわたしのおっぱいのこと思い出してるんじゃないでしょうね!」
「い、いや、そ、それは……!」
「わたしはべつにいいよ。見られたのは青太だし」
そうクールに言いながらもなずなの耳は燃えるような真っ赤になっていた。
なずなはそんな自分をごまかすように話題をずらした。
「そ、そうだ青太! コスプレなんだけどさ、こっちバージョンの方がよかったかな?」
なずなは部屋の棚の影から鉄仮面を持ち上げた。
中世のフランスを思わせるようなくちばし型の鉄仮面だった。
鉄仮面、上半身裸にオーバーオール。そして、オノ。
先程の麻袋とは違い『血みどろの湖畔part2』では、殺人鬼は鉄仮面をかぶっている。
そして特徴的なのは鉄仮面には数個の鼻が接着されている。
『血みどろの湖畔part2』の殺人鬼は、
part1と同じく湖畔でイチャつくカップルを殺すしドラッグではっちゃけている若者を殺すのだが、
前作と違うのは……
殺したあとに鼻をそいで自身のかぶっている鉄仮面に接着剤で付着させるのだ。
なずなが持ってきた鉄仮面にはそれがもちろん表現されている。
「うぴゃああああああああ!」
青太は恐怖に叫んだ。
「ハハハハ。青太はやっぱりリアクションがいいなぁ。ホラーのやりがいを感じるよ」
「ぼ、ぼく絶対にいやだよ……『血みどろの湖畔』を観るなんて……。それに旧図書館だって、入りたくないよ……あそこは心霊スポットだって噂じゃないか……」
「だから、いいんじゃない。一石二鳥よ! いや、一石二ホラーか」
「ああああああ。いやだぁぁぁ!」
「耳にふぅ~ってしてほしくないの?」
「……え?」
「ホラー映画一緒に観てくれたら、ふぅ~してあげるよ」
青太は過去になずなから耳打ちされた際に、
耳に吐息がかかるとゾクゾクすることに気付かれてしまい
『青太の性感帯は耳である』となずなは認識していた。
「青太って耳が気持ちぃんだもんね」
「ち、ちがっ……」
「ね、一緒に行こうよ! わたしたちラブラブカップルなんだしさ!」
そう言われてなずなは青太の腕にからみついてくる。
青太は困った顔をしながらも、
なずなの楽しそうな笑顔を見ていると仕方ないと思って
ホラー映画を観る覚悟を決めた。
青太君となずなのホラー生活『episode1』となります。
青太君、なずなのためにホラー映画を観る覚悟を決めました。でも、身震いしまくってます。
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