第❶話 カーテンと窓の間に……
安田青太は図書室の扉から顔を出し、
かけている丸メガネをくいっとなおしてから、
右に左と確認し、コソコソと逃げるように走った。
手には一冊の本を持っている。
そして、周りをキョロキョロ確認しながら廊下を小走りで抜けていく。
その姿はまるで天敵から逃げ回るウサギのようだった。ビクビクしながら急いでいる小柄な青太はまさにそんな感じだった。
青太は美術室にたどりつく。
美術室のドアをノックした。
「し、失礼します」
美術室には、美術部員たちが数人いて談笑していた。その空気が青太の登場により、しんと静かになる。
「きょ、今日もお借りします……」
そう言って青太は頭をさげて、美術室の奥にある『美術準備室第2』に入る。
そのドアには簡易的な手描きのプレートが貼られており、『ホラー研究部』となっている。
ゆるゆるのドアノブは強くひっぱれば取れそうだった。
ギィィィ。
バタン。
美術部員たちからの冷たい視線をドアを遮断する。
青太はホッと息を吐いた。
六畳ほどの部屋には、美術用のボロボロの作業机と同じくボロボロの丸椅子がある。その椅子のひとつに座る。
そして、先ほど図書室でこっそり借りてきた『学校のちょ~こわい話6』の表紙をじっと見る。
吹き出しみたいなお化けと二頭身の男子と女子が描かれている。
かわいらしい絵だったが、
青太にとってはビクビクと背筋がそぞる。
しかし、青太はぶんぶんと顔を横に振って、
恐怖の感情を払おうとする。
丸メガネをくいっと掛け直した。
「よ、よし、読むぞ……!」
ページをめくる手は震えている。
ペラ……。
『学校のちょ~こわい話6』は怪談話の短編集である。
その最初の怪談は、
「カーテンと窓の間に……」というタイトルだった。
「ぴゅああああああぁぁぁ……!!!!」
そのタイトルだけで、
青太の頭の中には教室のカーテンと窓の間に誰かがぼうっと立っている様子が想像される。
そしてそれを考えた時に、
今ここの『美術準備室第2』のことを思い、窓のカーテンに目をやってしまう。
「!!!!!!!」
なんと、カーテンの下から足が二本伸びていた。
「ギャアアアアアアァァァァ!!!!!!!!!!!」
青色のジーンズだった。
いつからいたのか、遮光カーテンのため、カーテンの向こう側にいる誰かのシルエットも何も分からない……。
青太は本を落とし、椅子から転げ落ちる。
そして、思わず涙があふれてしまう。
「うぴゃああぁぁ……」
するとカーテンがゆらっと揺れて、足が動く。
青太はもうパニックだった。
ここでこっそり、小学生向けのホラー書籍を読んで、
ホラーに対する免疫をつけようと思っていたのに、
まさかその本の冒頭の怪談が現実に起ころうとは思ってもいない。
青太は後悔する。
どうしてこんなことになったのか。
青太は、ガクガク震えながら、
死の直前に見ると言われている走馬灯でも見てしまったような絶望的な顔つきになった。
そしてカーテンからすっと何かが出てきたかと思ったら……、
ごつごつした金属のオノが出てきた!
「…………!!!!!」
青太は口からエクトプラズムが出てもおかしくないほど、
すっと落ちるように気を失ってしまい、ばたと床に横倒れになった。
そしてカーテンから、オノとともに、
速水なずながビャーっと飛び出てくる。
「ジャジャ~ン、私でしたぁ!」
その姿は異様だった。
いつものなずなではない。
頭には麻袋をかぶっており、左目部分に唯一の穴を開けてそこからのぞいている。
そして手にはオノ。
青色ジーンズ生地のオーバーオールを着ているのだが、
なんと裸体の上にそれを着ているので、
オーバーオールの紐の部分で両胸の大事なところを隠している。
「え? ……青太?」
なずなは麻袋の中で心配げな表情をした。
倒れている青太に慌ててかけ寄り、床にしゃがみ込む。
「青太! ねえ、大丈夫??」
なずなはオノを持ちながら中腰になって、青太をゆさぶった。
その際に、オーバーオールの胸元に大きな谷間ができ胸がぷるぷる一緒にゆれる。
「うぅ……」
青太は苦しむような顔つきで、気を取り戻し、
……ゆっくりと目を開けた。
すると、そこには麻袋をかぶり半裸の人間がオノを持っている。
「……こ、殺されるゥゥゥゥゥゥ!!!!!!」
その突然の絶叫に驚いたなずなはのけぞり、尻もちをついた。
そして、そのせいでオーバーオールのひもの留め具が外れてしまい、
なずなのDカップの胸がプリンとあらわになってしまう。
「きゃ、きゃあー!」
なずなは慌てて胸元を隠す。
「!!!!!!!!」
青太はそれを直視してしまう。
顔は真っ赤になった。
そして、
ブーーーーーーーーッ。
と鼻血が両穴から噴射した。
「う、うわあああああ」
青太の鼻血の勢いの凄さに、なずなは声を上げる。
美術室にいる美術部員たちは、『美術準備室第2』もとい『ホラー研究部』の部屋を見ながら目を見合わせて苦笑した。
青太君となずなのホラー生活『episode1』となります。
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