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8、売り言葉に買い言葉


「なんだってリンが居なくなった?本当に言ってる?」


「冗談でこんな事は言いません!すみません。」


魔王様とクイン様は通話口で話し合っている。不甲斐ない俺のせいで。俺の仕事はリンを守る事なのに怒りに任せてあいつを放ったらかしにして挙句誘拐を許すなんて。しかも八つ当たりをして。


「最低だ。」


刀を強く握る。本当に最低だ。俺を心配してくれたのに。


「とにかく僕とクインもそっちに行くから。」


と言ったと同時に2人は目の前に現れた。魔王様とクイン様は深くローブを被っている。


「と、久しぶり。でリンの荷物は?」


「ここです。」


俺はキャンプの中にあった袋を渡す。テントは既に片付けている。


「君が30分前に戻った時にはもうおらず荷物も残したままだったと。ウルフはこんな深夜にどこに行ってたの?」


「スコープ今はそんな事より探すのが先。荷物を貸してトレースを使うから。」


クイン様からいつもの穏やかさは感じられず焦りと怒りが表出している。魔王様はただただ俺に対して呆れているように見える。リンに関して魔王様はクイン様が見つけると信じているようだ。


「分かった。ここの近くの魔物の村。転移する。」


その瞬間、詠唱もなく3人一気に村に着いた。クイン様は初めての村にも転移できるのか。

魔物の村だが皆人型になっているので一見魔物の村だとは気付かれないだろう。


「クインどっち?」


「ここよこの中。」


クイン様は料理店を指さす。そして有無を言わさず入っていく。魔王様も後に続き俺も慌てて中に入る。


「お客様困ります!貸切なんです!」


「だから?」


クイン様は本当に人間なのだろうか?人型とはいえ自分より大きな魔物相手に怯む事なくずんずん中に入る。最初に注意してきた男に呼ばれたのか店の奥から黒いスーツを着た用心棒らしき人物が出てきた。


「おい、女。痛い目にあいたくなきゃ出ていけ。」


大柄で人相の悪い男が3人、恐らく動物型の魔物だ。ゴリラとサイとライオンか。俺から見てもとても強い部類に入る魔物達だ。


「虫の居所が悪いの。手加減できない消えて。」


クイン様は冷ややかな声で3人の男達に言い放った。魔王様は仲裁することも無く、その場を眺めている。


「魔王様助けなくて宜しいんですか?クイン様が傷付く事になりますよ!」


俺が魔王様に叫ぶと魔王様はいつもの笑顔でこたえた。


「ウルフ見ておいて。あれが魔王の妻だよ。」


「えっ?」


クイン様は男達を前にしても一歩もひかない。


「このアマ!」


男が一斉に飛びかかった瞬間、決着がついた。一瞬の内に男3人はボロボロになって床に倒れた。


「えっ?今何が起きたんですか?」


「ウルフ見えなかった?あの3人をくっ付けてバリアを張って中に閉じ込めて爆破したんだよ。怖いねぇ怒っているクインは。ウルフも歯向かったら駄目だよ。」


魔王様はニコニコと話している。俺は瞬きもせず見ていたのに何も分からなかった。多分店内に居た全員が何が起こったのか分かっていなかった。クイン様のローブがめくれて顔が見えザワザワとし始めた。若い上に人間の女がという驚きと恐怖からだろう。皆怯え始めた。


「何?何が起こったの?あの女の子何をしたの?」

「私達殺されるの?」

「いや、人間は不可侵条約を結んだ。そんな簡単に破らない…だろう。」

「あの3人で勝てないならこの村は終わりよ!」

「あまり騒ぐなこっちにこられたらどうするんだ。」


クイン様はローブを被り直し一段と冷ややかな声で言った。


「ここの責任者を。」


店内に居た全員が最初に対応した男を見た。男は目を逸らし名乗り出ようとしない。


「3秒数えて名乗り出ないなら店を壊す。1、2。」


「すみません私です!」


男は慌てて名乗り出た。完全に怯えて膝がガクガクと震えているようだ。


「魔王様、クイン様は山賊か何かだったんですか?」


「コラコラ、山賊に失礼だよ。クインはね人の為ならなんでもできるだけだよ。本当になんでもできるんだ。」


魔王様はまたニコニコと話す。クイン様は本当に何者だったんだ?何故結婚したんだこの人?


「支配人ここに人間の女の子が居るでしょう。出して。」


「はい、ですが。」


「出せ。」


クイン様は低い声で支配人を脅し支配人は奥へ飛んで行った。そして奥から長身の男とリンが出てきた。


「ウルフ、それにクインさんもスコープさんも。」


リンはケロッとした様子で話す。ただやはり非常事態らしい長身の男はリンの腕を離そうとしない。


「サズ離して!」


「だめだよぉう。君はもう僕の物!でしょー?」


「違う!どうしてそうなったの?」


「さっき番になってくれるって言ったじゃーん。」


「言ってない!」


リンは魔物に求愛されているようだ。誘拐の顛末が見えてきた。


「その手を離して。さもないと。」


「クイン落ち着いて。彼はまだ若い間違いは誰にだってあるよ。それに魔族はしつこいよ求愛ともなれば話は別だ。力づくではなく納得させて離れてもらう方がいい。」


「リン、この人達はだぁれ?」


あいつリンの体をベタベタと触りやがって!リンも嫌なら離れればいいものを!


「リンを離せ!」


俺は迷わず男に斬りかかった。ヒラリとリンを横抱きにしてかわされた。


「クソが!」


「ねえウルフ僕の話聞いてた?クインもストップ。」


「リン、本当に誰なのぉ?全員やっていい?邪魔してくるみたいだしぃー。」


「駄目!」


「リンを離せ!クソ野郎!」


氷の魔法を唱える。腹立つがそれもよけられるだがそれでいい、着地点を狙って斬りかかる。怯んだ所でリンを回収できた。そしてそのままリンを後ろに庇う。


「リンを返せ犬っころ!」


ほーう俺が狼だと分かっているのか。あいつ殺す。


「黙りやがれ!近寄るな盗賊風情が!」


それぞれが一触即発の状況で銃の発砲音が鳴り響いた。魔王様が誰も居ない壁に向けて一発撃ったようだ。


「全員いい加減にして。とにかく話し合うから奥の部屋を貸してもらうよ。支配人いいね。」


「ひゃい!」


急に話をふられて完全に怯えきった支配人が声を裏返して叫んだ。店内に居た他の奴らは外に出て行った。3人の用心棒はまだのびている。


「さあ、行こうか。」


魔王様はクイン様の手を引いて奥へ向かう。俺もリンを庇いながらそれに続いた。長身の男は俺が気に食わないのかブツブツと文句を言いながら最後に入ってきた。


「さあ、じゃあ席に着いたね。始めよう。僕はスコープ何でも屋を夫婦でしていてこちらが妻のクイン。そして君が拐った女の子は薬師のリン、そしてその子を守る騎士のウルフ。君は?」


「僕はぁここの村の首領サズだよ。リンを番にするって決めたのぉ。」


「リンはそれに同意してるの?」


「してない。」


リンは冷めきった表情で言う。良かった。


「らしいけどサズどうかな?」


「うーんでもぉ、リンを見た時1人だったよ。あいつはリンを守ってない僕の方が守れるよぉ。ねーえリン?」


「それは!」


リンは俯く。言い返せない確かに俺が仕事を放棄してこうなった。


「サズ君それとこれとは話が別だよ。だからといって連れて行っていいという事ではない。話の論点をすり替えないでね。」


魔王様が優しく話す。サズは天然なのか頭が切れるのか話し合いが得意そうだ。


「うーん。とにかく君はリンを守れてないってことぉ。ねーリン。」


「そんな事は!」


「やっぱり番にするならどんな時も守ってくれる男だってぇー。ねっ?」


「おい!言わせておけば!」


俺とサズがいがみ合っているのを魔王様とクイン様は呆れたように見ている。


「分かったぁ。じゃあ勝負しよう。僕が勝てばリンは僕と番に。君が勝てばリンを自由に。」


「望むところだ!」


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