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3、カイル様


「スベンに着きましたね。」


聖水の川が流れているからか空気も綺麗な気がする。森の草木も生き生きしていたし。


「とりあえず宿を先にとって荷物を置いて僧侶を探す。」


「分かった。」


ウルフは刀に手を置いて頷いた。何となくいつもそこに刀が刺さっていたんだろうなと思わせる癖だった。だったら渡すまで何故刀を持っていなかったんだろうか。

宿は村の入口すぐにあって良心的な料金だったので1部屋おさえた。


「宿は2部屋でもいいんじゃないか?」


「節約しないと続かないわよ。」


「まあリンがいいなら良いが。」


ウルフは困った顔で話す。そりゃプライバシー的にも別の部屋がいいけどお金が無いのだから仕方がない。未だにモジモジしているウルフはさておき、受付のおじさんに僧侶の居場所を聞いておこう。


「おじさんなんでも治しの僧侶様ってどこに居ます?」


「ああ、カイル様かい?それなら村の教会にいるよ。カイル様はそこの孤児院で先生をしながら治療もしてくださるんだ。」


「カイル様って勇者一行の?何故こんな辺鄙な場所へ?ってごめんなさい。」


「ははっいいよ確かに田舎だし。ここは20年位前から魔物が全く寄り付かなくなって病気も蔓延しなくなった。その事を調べる為にカイル様はここに来たんだ。」


「へーそうなんだありがとう。助かりました。」


おじさんに宿泊費を渡して宿を出る。まだ昼過ぎだし今から出向いてみよう。


「リンはなんでも治しを手に入れてどうするんだ?」


「徹底的に研究する。そしてそれよりもいいものを作って母さんに一人前だと認めてもらう。」


「そうか、応援するよ。」


「あんたはなんで着いてきたの?」


「世界が見たくて。」


「ふーんそう。」


何となく嘘だと感じたけどそれ以上は踏み込まなかった。その後は話すことも無く10分程歩いた。教会が見えてきて少し安堵した。これ以上の沈黙は耐えられそうになかったし。


「ごめんください。カイル様はおられますか?」


教会に入って声をかける。すぐに奥の扉が開いて黒衣の詰襟をした男性が出てきた。僧侶と言うよりは神父さんのようだ。


「何の用だ?」


まあ見た目通り前髪が目にかかっていて目は合わないし、無表情だし挨拶もなし。いわゆるコミュ障ってやつだな。


「はい、こちらになんでも治しを作る事ができるカイル様がおられると聞いて参りました。」


「俺がカイルだ。」


嘘でしょ。これが勇者?


「申し遅れました。私はリン、彼はウルフです。なんでも治しを探す旅をしているのです。」


「残念だがなんでも治しという薬はない。治癒の力で治している。」


「そうですか。」


ガッカリだ。勇者の能力なら確かになんでも治せるだろうな。

明らかに肩を落としてしまう。正直、これ以上調べていないし。ウルフに申し訳ない。


「この近くに聖職者ばかりが暮らす村がある。」


カイルは私の落ち込みように責任を感じたのかそんな事を言い出した。ワイトか、ここにないならそうするしかない。少し気を取り直して姿勢を正す。


「ありがとうございますカイル様、行ってみます。ここは空気が澄んでいて綺麗ですね。」


「ああ、誰かが聖水を撒いていたんだな。あの暗く深い森に魔物が全くいないのはそのおかげだ。」


聖水を?そんなの誰が?カイルは私の表情を読んだのか静かにこたえた。


「きっと正しい人だ。正しくて強い人だ。」


カイルは今度は真っ直ぐに目を見てこたえた。そういう事かカイルはその人を探す為にここに居るのか。ここでその人を待っている。


「会えるといいですね。」


素直にそう思った。カイルは少し目を見開いて頷いた。


「では私達はこれで失礼します。カイル様貴重なお時間ありがとうございました。」


「ああ、気をつけて。」


宿に戻る途中で食事をとることにした。


「ウルフは教会とか平気なんだね。」


「ああ、別に何ともないな。だけどあのカイルという人は俺が魔物だと気付いていたよ。」


「そうなんだ。私には違いが全然分からない。私は魔法使えないし魔力が見える人は分かるの?」


「正直、分かる人には分かるとしか言いようがないな。」


「へー。」


食事を終えて部屋に戻る。ウルフは魔王に報告するからと外に出て行った。私は待つ事なく先に眠った。




「はい、スベンに着きました。リンはなんでも治しを探しているようです。」


「なんでも治し!なんでも治しを探して旅に!」


スコープ様は笑いを堪えている。傍にクイン様も居るようで2人で笑いを堪えている。何がそんなにおかしいんだ?


「後、カイルという勇者一行の僧侶がいました。」


「えー今は何を?」


スコープ様ではなくクイン様が返事をした。クイン様は元勇者なのでやはり知り合いのようだ。


「はい、スベン周辺に聖水を撒いている人物を探しているようです。」


「えっどうしよう。何故なの?」


「お慕いしているようです。聖水を撒いている人物を。」


「「えっ。」」


声を揃えて本当に仲が良い、と思った途端スコープ様は不機嫌になり始めた。


「クイン駄目だよ。行っちゃ駄目だ。浮気だ。」


「でもいつまでも待たせるのは可哀想じゃない?」


「待たせればいいよ。僕も長い間ずっと君を待ったんだから。どこにも行かせない。」


「分かったわ。あなたのそばに居る。」


クイン様は呆れたように言う。スコープ様は機嫌が戻ってまた話し始めた。


「うんクインありがとう。じゃあウルフ明日も早いだろうそろそろ終わりにしよう。」


「はい。」


「そうだ、なんでも治しの事もし行き詰まったら僕に言ってね。」


「はい、承知しました。」


「堅いなぁ。」


そして通話が切れた。スコープ様とクイン様はなんでも治しを知っているようだ。

部屋に戻りリンが居ることを確認して俺も眠りについた。


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