2、魔王の真意
「リンさんまずはどこに行くのですか?」
「これから長い旅に出るしリンでいい、敬語もやめて。」
ウルフは少し考え、分かったと頷いた。
「それでどこに?」
「まずはスベンに聖水の川を見に行く。そこになんでも治しを作れる僧侶が居るらしいし。」
「へえなんでも治し。」
「ええ、それにここから近いし歩いてなら1日野宿して昼には着くでしょう。」
「ああ、そうだな。リンは旅が初めての割に上手に地図を見る事ができるな。頼もしいよ。」
少し笑っている。今の口ぶり誰かと比べたんだろうか。
「ねえ、魔王城にいたって事はあなたも魔物なの?」
「ああ、そうだよ。というか知らずに来たのか?」
「まあ後で聞けば良いかなって。」
「俺は人狼だ。基本は人型だからほぼ人間に近い。自分の意思で狼になれるという以外は人だな。」
「じゃあ狼になれる人だね。」
「ふっははそうだな。」
この人本当に強いのかなと不安になる位人懐っこい性格のようだ。
ああ、そうだ。
「これ母さんから。」
私は収納袋から刀を取り出しウルフに渡す。
「これは?」
「準備に2日あったでしょうその時スコープからあなたが刀を使って戦うって聞いて母さんが私を守ってくれるお礼にってこれを。」
「わざわざありがとう。これはとてもいいものだ。それに帯刀しているとそれだけで人払いにもなるしちょうどいい。」
ウルフは刀をベルトにさした。刀に付いた赤い紐をベルトに括りつけている。
「そういえばあのあの制服は着ないの?」
城内にいた時は黒地に金の刺繍が入った騎士の制服を着ていたのに今は白いワイシャツに黒のスキニーズボン、黒い革靴とラフな格好だ。
「あれは魔王軍の制服だからな外で着るのははばかられる。」
「あーそうなの。さあ日が落ちて来たしキャンプの準備をしましょうか。少し森の奥にしましょ。」
「ああ、そうしよう。」
晩飯を食べた後リンは着ていた紫のローブにくるまって眠ってしまった。なんの警戒心もなく眠る姿は子供のようだ。
「魔王様、何故私にこの役目を?」
あれは旅の準備が終わりそろそろ出立する時だった、魔王様が俺の部屋に来られて。
「ウルフ準備は進んでる?」
「ええ、まあほぼ終わりました。」
「偉いね。僕はいっつも何か違う事を始めてしまってクインに怒られるんだよ。」
スコープ様はクイン様と結婚されてから本当によく笑うようになった。以前は表情を浮かべる事が全くなかったのに。側近様もシュラ様もいつもその事を気に病んでいらっしゃったけど今は気負いなく仕事を押し付けられると喜んでいた。
仕事をたくさん振ってもスコープ様はクイン様が傍にいれば文句も言わず仕事をするし何よりクイン様も優秀なお方らしい。残念ながら俺は見ていないが数千の泥人形を消滅させた姿は魔王そのものだったと評判だ。
「ウルフ、僕はね君は世界を見た方が良いと思ったんだ。君の村は閉鎖的で古い考えに固執している。それが原因で僕の元へ来ただろう。だからあの子と同じく君も世界を見て回った方がいい。色んな物を見てくるといいよ。」
「はい、魔王様がそう仰るなら。」
「君は堅いね。さあこれを持っていくといい。」
魔王様が赤い石が付いたピアスと灰色の石が付いたピアスを1つずつ俺に差し出した。
「クインが作ったんだ。赤い方が僕と話せる魔法石、時間なんて気にしないでいつでもなんでも話してね。君が望めば繋がるから会話を盗聴したりは出来ないから安心して。灰色の方は魔王城に転移させる魔法石だよ。これには防御の魔法と能力上昇の魔法もかかっているからなるべく肌身離さずつけておいて。」
「はい。ありがとうございます。」
右耳に赤を左耳に灰色を付けた。確かに能力が上がっている。
「じゃあ気を付けて行って来るんだよ。」
魔王様が笑顔で見送ってくださった。
「魔王様私は貴方の優しさを受ける資格なんてないのに。」
俺の声は森に消え焚き火のパチパチという音だけが耳に入ってくる。
リンは世界の何を見たいのだろうか?とにかく自分は二の次だ今はリンを守る事に専念しよう。それが魔王様から仰せつかった任務なのだから。