12、空振り
「とにかくここから真っ直ぐに地下牢を目指すから。」
「はい。」
「とにかく固まって行動。何かあればフォローし合う。じゃあ行くわよ。」
水路から上がりさっと着替えた。魔王様とクイン様は上から下まで真っ黒の服を着ている。いわゆる戦闘服というらしく帽子まで被っている。魔王様は黒いニット帽を、クイン様はつばがついた黒いキャップ、靴は編上げのブーツで足音がしない靴を履いている。2人ともお揃いで使い込まれている感があり歩き方も慣れているのでなんだか怖い。
俺は新品の戦闘服を貰いそれを着ている。靴は慣れたものがいいとの事なので旅に出た時から履いている靴を履いた。
水路から出た所で1人兵士が居たので魔王様が睡眠弾を撃ちクイン様が研究所に転移させる。その後も出会う兵士は全て同じ手順で消していく。
「この作戦俺いりますか?」
「ウルフ、ちゃんと後ろから人が来ないか見ておく係がいるでしょう。黙って仕事をしろ。」
魔王様の口調が荒い。初めての経験だったので心臓がバクバクと動く。集中しよう。魔王様とクイン様もとんでもなく集中しているし。とにかく足でまといにならないように。
「着いたわよ。」
地下牢に着き扉を開ける中には3つ檻があってこの中にリンがいる筈なのだが、声をかけても探し回ってもリンの姿はどこにもない。
その時どこからともなく女の声が鳴り響いた。
「あらあら、そこの3人。探しているのは娘かえ?」
魔王様もクイン様も喋らずにじっと様子を伺っている。
「わらわはここの女王じゃ。ふふ、砂の国は何故わざわざこんな辺鄙な砂漠にあるかご存知かえ?」
「魔法力が強いからでしょ。」
「おお、喋ったな。そうじゃだから城内の魔法の防護は完璧なのじゃ。兵士は殆ど持っていかれたようじゃが。先に姪っ子を避難させて本当に良かったわい。こんな危険な賊に狙われていたからのう。」
「なぁにぶってんだか!さあその子を返してもらおうかしら!」
「子供の癖に生意気じゃのう。分かっておるじゃろ。姉のリアンを連れて来い。」
「死んだわよ!」
「ふむそうかえ?姪っ子は元気に生きておると言ったが。それならばやはり姪っ子はこのまま死刑にするしかないかえ?」
「なんだったらこの国丸ごと無かったことにしたっていいのよ。」
「おー怖い怖い。じゃがそうなるとこの娘は私と死ぬ事になるえ?良いかのお?リアンが悲しむのう。」
「今確保してる兵士を全員殺したっていいのよ。」
クイン様が地獄の底から出ているのかと錯覚する位の声で女王と話し合っている。別に怒鳴っている訳では無いのに全身がビリビリとしている。俺は立っているのがやっとだが魔王様は平気な顔をして1人考え込んでいる。
「兵士が100人死のうが200人死のうが痛くも痒くもないわい。とにかくリアンを連れて来い。今度は正面から入るんじゃぞ。」
ぶつっと音がして女王の声は途切れた。もう地下牢に用は無い。仕方なく水路からリンの両親がいる場所まで戻った。
「ごめんなさいリアン。全てバレていたわ。そして女王は貴方が来ることと引き換えにリンを返すと言い切った。」
「行くわ!」
「でも!」
「私の大事な娘よ。絶対に行くわ。」
「そうよね。明日一緒に行きましょう。」
「ええ、お願いね。」
クイン様はそう言い残し歩き出した。
「クインどこに行くの?」
魔王様が優しく声をかけた。
「研究所の兵士と研究員を全員殺すわ。」
クイン様は笑顔で言った。とてもいい笑顔で。クイン様は魔王様よりも魔王的な考えをお持ちなのだろうか?その場にいた全員が静まり返った時、それに気付いたのかまた笑って、
「冗談よ殺さないわ。話を聞くだけよ。」
と言い直した。魔王様が後に続き一緒に研究所へ向かった。俺はリンの両親になんでも治しを探していたという事と旅の記憶を話し続けた。
「あんたはここの所長ね。何故女王がリアンを探しているのか話しなさい。」
「仮にも公僕だぞ!話すもんか!」
「へーそう。じゃあこの研究所がなくなってしまうわね。何故かは分からないけど。」
「お、脅すのか?」
「いいえ、脅してないわ。ただここが吹っ飛ぶだけ誰も傷つかない。」
「……。ここはあのリアン様が命をとして作られたなんでも治しの研究をしている。だからやめてくれ頼む。」
「へーそう。何故?」
「子供が謎の病にかかっている子供が居るんだ。」
「だから何?」
「私と、彼女の子だ。だから助けてくれ頼む!」
「最初からそういえばいいのよ。私達何でも屋なのあんたの願い叶えてあげるわ。その代わり協力しなさい。」
「ああ全て話すから!頼む!」