10、砂の国の王
砂漠に入ってからはやたらと歩くのが辛く休みながらの移動となった。砂の国に着いて1番に目に入るのは高い壁だろう。何者も寄せ付けない国を取り囲む壁。門の所に兵士が立っていた。
「おい!お前達何者だ!」
「私達は旅の者です。」
「よしでは100ゴールドだ。」
入るだけで金を取られる国なんて今までなかったのに。信じられない!
仕方なく100ゴールド差し出す。よく見ると看板が出ている。行商人は1000ゴールド取られるらしい。100ゴールドと引き換えに板を貰った旅人と書いてある薄い手の平に収まるサイズの板だ。
「中にいる間これをいつも携帯し何かあれば必ずこれを兵士に見せろ!よし入れ!」
「はい。」
兵士は門を開けてまた閉め外に戻って行った。
「じゃあ研究所を目指しましょう。」
「ああ。」
門をくぐるとどデカい城が目立っていた。ここは城下町のようだ。お店が立ち並び賑わっている。街の人に道を聞いて研究所まで辿り着いた。研究所は少しはずれた場所にあり一通りも少ない通りに面した白い大きな建物だった。
「着いたけど、なんでも治しのレシピなんて国宝じゃん、見せてくれるかな?」
「そうだな最悪力づくで行くしか……。」
「うーん。とにかく入ろう。」
そして研究所の玄関の扉を開いた途端、建物中に警報音が鳴り響いた。耳をつんざく音に私もウルフも狼狽えて耳を塞いだ。音は数秒で止みその後、白衣の男性が慌てて廊下を走ってこちらに向かってきた。
「女王様!今日はどのようなってあれ?女王様じゃない。」
「やっと収まった。うるさ!」
「えっあなたが扉を開けました?」
「そうですよ。ていうかなんですかあの音、それより私達はここにお願いがあって。」
「貴方が開けたんですね?」
「はい、そうです。だから話を。」
「女王の血に反応して警報音が鳴り響く。この機械は絶対だ。という事は女王の血縁関係。でも女王には子はあの方しか。という事は彼女は………。」
白衣の男性はブツブツと呟いている。私の話は耳に届かないらしい。
「ちょっと!」
「貴方名前は?」
「リンですけど。」
「ふむ、ではこちらへ。」
「はあどうも。」
と促されて研究所に入ろうとすると玄関の前の階段から走って白衣の女性が降りてきた。
「所長!女王様はってあれ?」
「はい、女王様をお呼びください。見つかったと。」
「……。承知致しました。」
白衣の女性は来た時よりも早足で玄関の横の部屋に入った。私とウルフはその隣の部屋に案内された。中は応接室のようで革張りのソファにローテーブルと観葉植物が置いてある。
向かい合って3人がけのソファが2つ並んでいたのでドアから1番奥が私、その隣がウルフ、ドアに近い方のソファに白衣の男性が座った。
「所でご要件は?」
やっと話を聞いてくれた。白衣の男性は40代位で腹黒い笑顔を浮かべている。胡散臭い。
「なんでも治しのレシピを見せていただきたいんです。」
「ほう、あれのレシピですか。分かりました。」
白衣の男性は立ち上がり部屋から出て行った。
「なんだ、拍子抜けだな。」
「うーん本当に見せてくれるかな?あの人胡散臭いし。」
「あーまあな。」
ウルフが少し笑った時またあの警報音が鳴り響き、放送が入った。
「兵士に告ぐ!目標は応接室。女の方が女王様の血縁にあたる。傷を一切つけるな!男は研究に使う!」
そして応接室のドアが開き瓶を投げつけられたと思った瞬間気を失った。
酷い頭痛に耐えながら目を開く。さっきまでの応接室とは違ってなんだかカラフルな内装の部屋に寝かされていた。まだぼんやりとしている頭で周りを見渡す。誰も居ない広い部屋に色とりどりの瓶が並べられている。全て薬のようだ。少し色がくすんでいるものもある。そして足枷が壁と繋がれている。目の前のドアには手が届きそうもない。
「はぁ?何事?頭痛いし。キレそう。」
ていうかウルフが居ない。多分私より鼻がいいので頭痛に酷く苦しんでいるだろう。可哀想に。
「目覚めたかえ?」
びっくりして前を見る。いつの間にか頭にデカい王冠を載せた女性がドアを開けて立っていた。王冠には大きな宝石が散りばめられている。40代位で少しだけぽっちゃりしているが可愛らしい雰囲気だ。顔が童顔なので黒のドレスが引くほど似合っていない。
「はあどうも。」
「確かに姉様そっくりじゃ。そちの母様は元気かえ?」
「ええ、元気です。」
と言った直後表情が変わった。凄まじい殺気と怒りが女性から感じられて鳥肌が立つ。急になんなんだ。真っ直ぐに睨まれているので身じろぎもせずただ視線に射抜かれていた。
「ほぅ母様は元気かえ。昔、自分の命を犠牲にして私になんでも治しを作ってくれた姉様は今も元気かえ。王に嘘をつくとはやはり選ばれない者は底意地の悪く、薄汚い。」
私は黙って話を聞いていた。母さんがなんでも治しを作った?
いや旅に出る意味。母さんに聞けば良かったじゃん。っていうか馬鹿じゃん私。
とそんな場合じゃない。この場をどうにかしないと。持ち物は全て取られているが転移のネックレスはある。ひとまずこれで。ってウルフを置いていく事になるのはさすがに駄目か。仕方ないここで情報を得るしかない。
「そちの母様は王族を欺いた。よって逆賊なり。しからばそちも逆賊。その罪を牢獄で償うがよい!」
バタンとドアが閉められ入れ替わりに入ってきた兵士に有無を言わさず腕を掴まれて地下の檻に入れられた。
「はあ?キレそう。あの女王マジでないわ。次に会ったらぶん殴る。」
地下の檻は3つあって今は私1人だけのようだ。ウルフはどこにいるのだろうか?転移を唱えても周りの檻に魔法を吸収され転移出来なかった。やっぱりウルフを残してとりあえず転移した方が良かったか。くそー!
「結局、どういう事なの?母さん勘弁してよ。」
私は固いベッドの上に寝転んだ。
「リン!」
飛び起きるとさっきの応接室ではなく薄暗い部屋のようだ。頭痛が酷い。目眩までおこしている。傍にリンの姿はない。やっと目が慣れてきて周りをよく見る。どうやら俺は檻の中にいるようだ。触るとビリッとする。中にはベッドとトイレがあるがそれ以外何もない。窓もない部屋なので地下なのか地上なのか朝なのか夜なのかさえ分からない。
ガチャりと音を立てて人が入ってきた。扉から光が差しているが、そちらを向く事ができず誰が立っているのか分からない。
「全くやっぱり着いてきて良かった。ウルフ怪我はないかい?」
「さあ鍵を開けたわ出ましょう。」
目を開くとそこに居たのは子供と老人だった。
「誰?」
目の前の2人が大笑いしだした。
「そっかそっか。ごめんごめん。これでどう?」
2人が光って魔王様とクイン様が現れた。
「魔王様、クイン様!ありがとうございます!」
「じゃあリンを助けに行こうか!」
「はい!」