おまけ とある女神の物語
吹奏楽部の爽やかな演奏が聞こえる、放課後の図書室。私はいつも通りカウンターに立って本の貸し出しをしていた。今日は金曜日で明日明後日は休日(部活によっては休日じゃないが)なので、特に人が多いから大変だ。
「すみません、芽依さん。この本の貸し出しをお願いしたいのですがよろしいでしょうか?」
「あ、はい。勿論大丈夫ですよ。」
本を片手に持って私に貸し出しを頼んできたのは、よくこの図書室に来て本を読んでくれている伊吹くん。私の幼馴染みで、おとなしい性格である。誰に対しても基本的名字+さん付けであるが、私は例外で彼からは名前+さん付けで呼ばれている。
まあ理由は、幼馴染みだからというだけで深い意味はない。彼とは幼稚園から一緒でずっと一緒にいるが特別な関係というわけでもなく、普通の友達として接していた。
「ありがとうございます。」
そういって一礼して席の方へ戻っていく伊吹くん。こうして礼儀も正しいし、密かに女子から人気があるとかないとか…。まあ、私には関係のない話なんだけどね。
こうして、図書委員としての責務も果たしながら適当に仕事をしていたら図書館の閉館時間が近くなっていた。もう周りにはそんなに人はいなくて、強いて言うなら伊吹くんが近くにいる程度だ。
とりあえず帰ってきた本を棚に返却する作業をスピーディーに終わらせて、なかに残っている人の追い出し作業をした。まあ、残っているといっても数人しか残っていなかったからすぐに終わったが。図書室の鍵を閉めて、職員室に返したらもう今日の仕事はおしまい。
因みに、今日は特に部活もないし(私は演劇部に所属しているが、あの部活は別名サボり部と呼ばれるほど部活が少ない)、後は家に帰るだけだ。さぁ~って、速く帰ろう。目にかかっている長い前髪を耳にかけて、学校の校門の方まで歩いていった。
すると、校門の方にはある女の子と楽しそうに会話をする伊吹くんがいた。伊吹くんの顔には、いつもよりも何千倍も美しい笑顔の花が咲いており、彼女のことが好きなんだなぁ。と見ているこっちもわかる。女の子の方も伊吹君のことが本当に好きなのか、可憐な花を彷彿とさせるような笑顔で笑っていた。それもそのはずだ、だって彼らは生まれる以前…いいえ、もっと前から結ばれることが決まっていたのだから。
彼らは、幾度となく悲劇を繰り返して、幾度となく悲惨な結末を繰り返していたリフィーとリネアの生まれ変わりなのだ。
そして、私の今の名前は氷室芽依。伊吹くんの幼馴染みで、図書委員会に所属する女の子。けれど、本当の正体はまた別のものである。それは、あるところでは運命を司る女神と呼ばれ、またあるところでは精霊と呼ばれる存在。
私は彼らの悲劇を天界から眺めていたのだが、何度も悲劇を繰り返す二人の様子を見て次第に哀れに…そして、幸せにしてあげたいと思うようになった。しかし、その頃の私は人間というものをよく理解していなくて、二人を幸せにしてあげたくてもどうすればいいのか分からなかった。
だから、私はリフィー…小梅姐様の世話をする禿として人間に転生をして、しばらく近くで観察していた。すると、小梅姐様は途中で狂ってしまうまではとても優しく接してくれて本物のお姉さんのように私を可愛がってくれた。
その頃になってくると、二人が望む幸せというのをある程度理解してきていたが、あの日までに間に合わず二人はいなくなってしまった。
前世でも幸せになれなかった二人だが、今世では私の運命を操れる力を使って、二人を高校で引き合わせた。本来であれば、もっと早くに会わせてあげたかったのだが、私の能力を私用で使っているとなると他の神が黙っていないので、ばれない程度に徐々に不幸分子をぬきつつ、二人を引き合わせる最高のシナリオへと誘導していった。結果は大成功。伊吹くんの方から女の子の方へと告白しにいって無事に二人は結ばれることができた。
伊吹くんとちらっと目があった。その目は幸せそうと言う言葉がぴったり合うほど、綺麗な目をしている。私は手をふってバイバイ、と一言聞こえるように呟いた。
二人の今世は、まだまだ始まったばかり。やがては枯れさって、この世界から忘れられてしまう日も来るかもしれないけど、その日が一日でも遅くなるように私は願おう。
ねぇ、美しい物語だったでしょ?