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一章 中世時代の恋物語



──

登場人物


◎エリリア=レーリッシュ=ルーティ


レーリッシュ王国の第二王女。


◎レティア


レーリッシュ王国の公爵家の息子。元々は貧民だったが、公爵の隠し子だったことがわかり、現在は公爵家で暮らしている。


───


 美しい音楽がダンスホール内に流れ、その曲に会わせて美しい衣装を見にまとった紳士淑女が踊る夜の舞踏会。私は正直この時間が嫌いだ。誰も彼もが笑顔の仮面をかぶり続け、周りを欺くこの時間が。


 私の名は、エリリア=レーリッシュ=ルーティ。ルーティ王国の第二王女で今宵の舞踏会の主役だ。


 この舞踏会は、私の婚約者をさがすという目的のもと開催されていて、さっきまで私や父上、母上に媚を売りまくってくる青年貴族の相手をしていた。


 そもそも王族の結婚に恋愛感情なんて存在しないし、父上と母上がすべてを決めてしまうものである。だから、私は適当に笑顔を振り撒いて座っているだけだった。


「父上、母上、わたくしは少しダンスホールにいってきますわ。」


「あら、いってらっしゃい。そうそう、仮面を忘れずにね」


 そう言えば、今日は仮面舞踏会だっていっていたな。確か、王族の婚約者を決めるのに他の貴族の恋は関係ないという話が大臣からでて、それが採用された結果らしい。


 まあ、その理論であれば私は仮面をつけなくてもいいのかもしれないけれど、まあ郷に入れば郷に従えだ。ということで仮面をつけて、ダンスホールに入った。


「そこのお嬢さん、私と一緒に踊りませんか?」


 ダンスホールに入った瞬間、一人の男性に声をかけられた。相手は私の正体を知らずに近づいてきたのか、知っていて近付いてきたのか分からないが、もし正体がわかってもなにも指摘しないのが暗黙のルールだ。


 ということで、私は特に踊る相手もいなかったしその男性に柔らかい微笑みを向けて言った。


「喜んで御相手を致しましょう」


 笑顔を作ることなんて、もうなれている。他の人から見ても、全く違和感もなくなるように幼い頃から仕組まれている。踏みなれたステップを踏んで、ダンスを踊る。


 つまらないリズム、つまらない音楽。そう思っている事を悟られないように、私は躍り続けた。三拍子のリズムで足を動かして、優雅に踊る。


 美しいワルツに、ダンスホールの中で踊る可憐な蝶。周りからみれば、私はただ一人の女性貴族にしか見えないだろう。


 一曲分躍り終わった後に、私はその男性貴族に適当に別れを告げて、とっとと離脱することにした。こんなところにいても楽しいことなんてなにもない。むしろ、疲れるだけだ。


 もう一度柔らかい微笑みをつくって、私は青年貴族にこう言った。


「ごめんなさい、少々疲れてしまいましたの。わたくしはこれから、一人中庭で休憩してこようと思いますわ。それでは、ごきげんよう。」


 そのまま、後ろを見ずにダンスホールから抜けようと思ったそのとき、さっきの青年貴族の声が聞こえた。


「ま、待ってください。もしよろしければボクもそのお散歩に同行させていただいても宜しいでしょうか。」


 はぁ…正直面倒くさいな。けど、ここで無下に断ってしまっては彼が可哀想だし、なによりちょっと気分的に誘ってみたくなった。ということで、私はもう一度彼の方を向いて


「えぇ、分かりましたの。それではついてきてくださいな」


 といった。彼は、仮面越しではあるが嬉しそうな顔をしてわたくしに着いてきてくれた。ダンスホールを抜けて、広場を抜けた先にある扉を使用人に開けてもらい、わたくしたちは中庭に出た。


 そこには、先程のドレスを着た少女たちに負けないほどのきらめきを持った花々が咲き乱れている。青年貴族は、その光景をとても驚いたような目をしているのが仮面越しに見えた。


「ここの花はとても綺麗ですね。流石、王族が住まうだけのことはあります。」


「そうですわね」


 適当な相づちをうって彼の話を聞いて見ると、彼は色々なことを話してくれた。元々は貧民であった彼は、実は公爵の隠し子だったことがわかり公爵の息子…レティアとして、公爵家に引き取られたらしい。


 公爵の息子として恥じないように、色々な勉強をさせられたこと、礼儀やマナーができないとたくさん怒られたこと。けど、優しい父上のお陰で毎日楽しく生活ができていることを楽しそうに話してくれた。


 今の貴族にはないような、煌めいた笑顔で話す彼は、月の柔らかな雫に浸されて、一層美しく見える。そんな彼の話を聞いていくうちに、彼の素晴らしい人間性を知ることができて、とうとうわたくしは彼に惹かれてしまった。


 その気持ちは、生まれる以前からも決まっていたかのように自然に芽生えてきて、私の心を温かく包んでいった。


 すると、真夜中の零時を告げる鐘の音が辺り一体に鳴り響いた。そろそろ、戻らないと行けないねと笑う彼の顔を見ながら、わたくしは小さくうなずいて広場に戻った。


「それじゃあ、この辺りでわたくしは家族のもとへ戻らせていただきますわ。あなたと別れるのは名残惜しいけれど、楽しい時間にはまた終わりというものは存在するのです。それでは、ごきげんよう」


 そういって、私は彼に別れを告げて父上と母上のもとに戻った。父上と母上には、少し心配されたけれど、とても楽しいことがありました。後で教えて差し上げますね。といったら、嬉しそうな顔で笑ってくれた。


 そのまま、パーティーはお開きになり、後日全体に向けて婚約者を発表するということになった。私は、そのまま父上と母上と兄上に、彼のお話をそのまま伝えた。


 その話をすると、三人ともとても喜んでくれた。公爵家の人間なのであれば身分も申し分ないし、わたくしが好きな人と結婚できることをとても嬉しがっていた。


 けど、この縁談話は誰もが幸せで誰も嫌な思いをしないとても良いものだと思っていたのに、私が想像していた結末とは違う末路をたどってしまった。


 この話を盗聴していた大臣息子がいたのだ。その親である大臣が、元々は息子をわたくしと結婚させて、莫大な富を得ようとしていたらしい。その息子も、わたくしのことを好いており、結婚する気満々でいた。


 けれど、わたくしと父上と母上がこの話をしているところを途中から聞いてしまい、激しい嫉妬に刈られた大臣の息子が、近くにあった宝剣を手にとって部屋に突入してきて、わたくしの脇腹を刺した。


 一瞬何が起こったのか理解できないまま、遠くなっていく意識。そのままわたくしは状況を理解できないまま、死んでしまった。

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