パンティーを描いてみよう
「謎の物体を口にするのはやめよう」
親友が反省を口にする。
いろいろと飛び散って大変だったが、なんとか処理してきた。
今は2人で部屋の床に倒れている。
「かまぼこだったらいけたかもしれないな……」
「食材の問題じゃないよ。僕の才能の問題だよ」
「いや、あきらめるのは早いぞ」
親友が起き上がる。
「……うっ」
また腹を抱えて崩れ落ちた。
すでに3回戦くらいまで絞り出しているので、体力がほとんど残っていない。
何か描くにしても、今日はもう無理だ。
「ま……また波が……」
「こ、こっちも……」
結局、この日はトイレと往復しているだけで終わった。
「今日もやるぜ」
その次の日。
懲りずに親友がやってきた。
少しやつれているが、動き回れるくらいまで回復したようだ。
「あれから何か描いた?」
「いや、何も」
「今日は最高にテンションが上がるヤツを持ってきたぞ」
そう言って、カバンの中からパンティーを取り出した。
女性用下着のパンティー。
キメ顔でパンティーを握りしめる親友。
「……どこで盗ってきたんだ?」
「安心してくれ。ちゃんとしかるべきルートで購入した正規品のパンティーだから」
「パンティーを購入しようとする思考が、そもそも安心できないんですが……」
「普通に買うでしょ?」
「え?」
「え?」
2人で顔を見合わせる。
「買ってどうするの?」
「そりゃかぶるでしょ。頭装備だし」
「え?」
「え?」
2人で顔を見合わせる。
「俺がやってるゲームはみんなかぶってるよ」
「大丈夫か? そのゲーム」
「大丈夫だよ。全世界で600人くらいはプレイしている人気ゲームだよ」
「田舎の町内通信かな?」
話を聞く限りまともなゲームじゃないし、600人もいる時点で奇跡なのかもしれない。
「それで……これをどうするの?」
「描くに決まってるだろ」
「えぇ……」
「テンション上がりまくりだろ?」
「いや、全然」
どうして野郎が使用したパンティーを描きたいと思うのか。
「大丈夫、ちゃんと洗ってある」
「洗わなきゃいけないほど汚れるんだ……」
「うっかりぶっかけちゃう場合もあるからな」
「……」
渡そうとしてくるけど、普通に受け取りたくない。
「もっと喜べよ! お前らが大好きなパンティーだぞ!」
「僕が好きなのは女の子がはいてるパンティーだよ! これは宇蔵の使用済みじゃん……」
「バカ野郎! これを好きな女の子にはかせた妄想をするんだよ! そして、その妄想を絵にするんだよ!」
パンティーを握りしめたまま、力強く訴える。
どうしよう。
すごく絵面が危険。
このまま通報するべきだろうか。
「ほら、この感触を味わえば、その気にもなるさ!」
しっとりとしたパンティーを渡される。
「あれ? よく見たら、妹が持ってるのと似てるかも」
「なんだって……?」
確か、こんな柄とリボンだったような気がする。
洗濯物取り込むときに見たことがある。
「亜希ちゃんが着用しているおパンティーと同じ物だと……?」
「いや、まったく同じかどうかはわからないけど」
「つまり、亜希ちゃん使用済みのパンティーを手にしていると言っても過言ではないと……?」
「過言だよ」
親友の使用済みパンティーだよ。
「そう考えたら、ますます興奮してくるな!」
「いや、別に」
「なんで!? 妹のパンティーとか、兄として最高の妄想グッズだろ!? まずはかぶるよね!?」
「それはない」
2次元の妹は好きだけど、実際の妹とは別物だ。
可愛くて献身的な妹とか、幻想でしかない。
最近は『ちさときゅんハァハァ……』みたいな独り言が部屋から聞こえてきて、ちょっと怖いし。
「え? 亜希ちゃん可愛いじゃん! 不能なの?」
「何言っているんだよ。毎朝掛け布団が悲鳴を上げるレベルでギンギンです……って、可愛いか?」
「可愛いって! うちのクラスでも狙ってるヤツいるから!」
「どちらかというと親父に似てるしなぁ……あと、その野郎どもの名前は教えろ。目つぶしくらいで許してやる」
「恵まれた人間はわかってないんだ! 俺なんか一人っ子だぞ!」
「僕はそっちがうらやましい」
父も母も、妹びいきがすごい。
お兄ちゃんだからって我慢させられることも、何度経験してきたことか。
「何が不満なんだよ!」
「……胸?」
もう中学生なのに、一向に育ってこない。
理想を求めるならば、やはりOカップは欲しい。
兄としては何もできないが、健やかに成長を祈っている。
「俺はぺったんこでも好きだけどなぁ」
「そんな絵も描いてたね」
「もちろん巨乳も好きだぞ」
「ゴリラだったけどね」
背中しか見えなかったが、胸筋はすごいだろうさ。
「……じゃあ、町田さんなんかはどう?」
「加恋?」
「そうそう、あの子デカいよね」
「まあ、そうだけど」
隣の家に住んでいる幼馴染。
小学校から今まで、ずっと続くクラスメイトでもある。
ボクの目測で現在Fカップ。
順調に育っているようで、お隣さんとしては誇らしい気持ちだ。
このまま夢のZカップまでがんばってほしい。
「そんな町田さんがこんな可愛いパンティーはいてたとしたら、たぎるだろう?」
「いや、加恋も妹みたいなもんだから」
昔からぼーっとしている性格だったので、何かと世話を焼いた記憶がある。
最近はマシになってきたようだけど、どうしてもそのイメージが強い。
「殴りてぇ! 自分の置かれた環境の素晴らしさを理解してないこの男を殴りてぇ!」
「そんなこと言われても……」
「だったら、Zカップモデルのペシャインさんがこのパンティーをはいたとしたら……?」
「みなぎってきたぁあああああ!!」
創作意欲があふれてくる。
急にこのパンティーが愛おしいものに見えてきた。
描ける……これなら描けるぞ!
「描くぞぉー!」
「お、おう……がんばれよ……」
「……どうかな?」
描きあがった一枚を、親友に見せる。
「お? いいじゃん! 今までのナメクジよりはずっと魂こもってるよ!」
さりげなく今までの絵をディスられたけど、この絵に関してはいい評価がもらえた。
描いている途中で、なぜか足がつったり、ずっこけてケツを強打したけど、どうにか形になったと思う。
自分でも手ごたえを感じる。
「この辺りのシワとか抜けるじゃん」
「そ、そう?」
「やっぱり描きたいモノを描くのが一番だよ」
「そう言われると、僕も自信が……ちょっと待ってくれ」
「ん?」
一度親友を止める。
「なぜ、パンティーをかぶった?」
「だって、これで2人分の装備がそろっただろ?」
「ごめん、その理論は理解できない」
息を吸うようにパンティーをかぶろうとする脳構造が理解できない。
パンティーをかぶらないと死ぬ病気にでもかかっているんだろうか?
「取り出してみようぜ!」
「あー、うん」
ちゃんとパンティーになっているかどうか。
変な振動とか叫び声は、もう十分だ。
「保存するぞ」
「おう」
保存という名の現実化ボタンを押し……。
「お兄ちゃん、聞きたいことがあるんだけど」
「うぉおお!?」
妹が乱入してきた。
「びっくりした……ノックくらいしろって」
「……それ、あたしの……」
「?」
妹の視線の先。
パンティーをかぶった親友の姿。
「やあ、亜希ちゃん」
にこやかな笑顔を返す。
妹の表情が、見る見る変わっていく。
「それ……」
「ん? ああ、これ? 柄といい形といい最高だよね。もう何度なめ回したことか……」
ドゴォオオオ!!
「親友ぅううううううう!?」
飛びヒザ蹴りが炸裂し、弧を描いて吹っ飛ばされる。
壁に当たって、ベッドのすきまに突き刺さる。
「その絵……」
「!?」
今度はこっちにやってきた。
まだ保存する前のパンティーが映し出されている。
うまく説明しないと、親友と同じ目に……!
「ち、違うんだ! これは正規に入手した合法パンティーを描いているだけであって、決して妹のパンティーを盗んで描いたわけじゃないんだ!」
「へぇー」
「ほ、ほら! 僕の理想ってZカップだから、いまだにAカップにすらならない妹のパンティーなんてそもそも対象外……」
ドゴォオオオ!!
角男くん入魂の一作。