食べ物を描いてみよう
「上手い絵を描くには、どうしたらいい?」
宇蔵先生に聞いてみる。
上手くなるコツを教えてもらえば、僕でもなんとかなるかもしれない。
「まずは、こう……画面にバーッと色を乗せるじゃん?」
「ふむふむ」
「そんで、しゅーってするじゃん」
「ふむ……?」
「仕上げにパパッとやって完成」
「ごめん、何を言っているのかわからない」
アドバイスが抽象的過ぎる。
「いい感じになるよう描いてけば、自然とそうなるじゃん?」
「ならないよ」
いい感じになるように描いた結果が、電気マッサージ機とか、Zカップの彼女だったよ。
「……あっ! そういえば、わかりやすく絵の描き方を教えてくれるオススメの絵画教室動画があるぞ」
「おお!」
そういうのを待っていた。
描き方の基本すら知らないので、技術を参考にしたい。
「家にDVDあるから取ってくるわ」
「よろしく!」
僕しか『願いが叶うペンタブレット』を使えないなら、僕ががんばるしかない。
なんとしてでも絵を描けるようになって、おいしいご飯を食べてやる!
「取ってきたぞ」
「ありがとう!」
用意しておいたDVDレコーダーにセットして、さっそく再生する。
『みなさんこんにちは』
画面に出てきた、アフロヘアーのおじさん。
絵を描きながら、同時にわかりやすい解説もしてくれるらしい。
誰でも簡単に絵が描ける手法なので、これは期待ができそう。
『ね、簡単でしょ?』
ほんの30分ほどで、1枚の絵画が完成する。
「ほら、こんな感じ」
「できるかーーーッ!」
部屋の中で叫ぶ。
「ひゅーってところが参考になるよね」
「なるかーーーッ!」
ただの超人スーパープレイ動画だよ!
誰でも簡単に描けてたら、Zカップ彼女が悲しみを背負うこともなかったよ!
「じゃあ、飯頼むわ」
「なんにもレベルアップしてないよ……」
印象的なアフロヘアーくらいしか覚えていない。
この状態で、どう描けと。
「だったら、まずは模写してみるとか?」
「見て描いてもアレだったんだけど……」
電気マッサージ機があんな状態だった。
でも、何も見ないよりはマシなはず。
台所に行って、描きやすそうな食材を探してくる。
「ちくわしかなかった」
冷蔵庫にあった1本のちくわ。
「ねぇ、このまま食べたらダメ?」
「これを元にして何本も増やせるんだぞ! よく考えろ!」
よく考えたら、食べる一択しかない。
食べられる物になるかどうかすら怪しい。
「絵に失敗なんてない! すべては楽しいアクシデントさ!」
「放送禁止になりそうなアクシデントが多発しているんですが……」
「大丈夫だ、俺もよく18禁な絵を描くから」
「見せられないの方向性が違うんだけど……」
まあいいや。
ダメだったら親友に食べさせよう。
ちくわを見ながら描き始める。
「よし、できた」
やれるだけのことはやった。
保存する。
『オギャアアアア!』
画面から出てくると同時に、産声を上げた。
何か産んでしまったらしい。
ヴヴヴヴヴ……。
細かく振動しながら、フラフラと近づいてくる。
「宇蔵、おなか減ってたんだよね? さぁ、遠慮しないで食べてくれ」
「俺はいいよ……今そんなに腹減ってないし」
「まぁまぁ、遠慮しなさんな。待望の昼飯だぞ」
『ギィギィギィギィ!』
「ひぃっ!?」
「きゃぁ!?」
おいしいちくわが立ち上がった。
「なんでこんなクリーチャー産み出してんだよ!? なんかしゃべってんじゃねーか!」
「だから言ったじゃん! 僕には無理だって!」
「ここまで酷いとは思わないだろうが!」
「僕だって予想外だよ!」
「……いや、ちくわにも穴があるし、言葉くらいは発してもおかしくなかったり?」
「声帯のつもりで描いたわけじゃないから! みそ汁とか吸う用の穴だから!」
「そうだよな、ちくわだって足くらい生えるよな。楽しいアクシデントさ」
「無理やり認めようとしなくていいから! 足じゃなくて焼きちくわのビラビラのつもりだったから!」
暴れ回るおいしいちくわ。
とても活きがいい。
「……食べてみるか?」
とうとう親友の頭がイカレてしまった。
「ちゃんとこの惨状見えてる? どうしてそんな発言が生まれちゃうの? 勇者か何かの末裔なの?」
「ちくわを見て描いたんだから、味はちくわかもしれない」
「コレ食べるの? ホントにコレ食べるの?」
キーボードに引っかかってブルブルしながら、ギィギィ叫んでいる。
自分ではがんばったつもりだけど、これはちくわではない。
「お、意外と柔らかいぞ」
親友がつかんだ。
ちょっと尊敬する。
頭はアレだけど。
「ニオイはなんだろ……ちょっとイカ臭い?」
「そういうディスプレイから出てきたからね」
今後のためにも、早めに交換すべきかもしれない。
「とりあえず半分にするか」
「えっ?」
「ふんっ!」
ブチィ!
『ギィァァァァァァァァ!!!』
2つにちぎると、断末魔のような叫びが響き渡った。
親友の手のひらの上で、ビチビチと激しく暴れる。
「はいよ」
片方を渡してくる。
ちぎれたところから、謎の汁が垂れている。
ちくわから垂れる汁って、なんだろう……。
「こうして見たら、なんだかいけそうな気がしてきた」
「確実に気の迷いだと思う」
まだうねうねしてるし。
変な汁が糸引いてるし。
「せーのでいくぞ」
「えぇ……」
空腹すぎて頭がおかしくなっているのか。
止まる気配がない。
「せーの!」
親友の行動を見守る。
「……」
うわ。
ホントに食べた。
この親友すごいわ。
「……ん? 意外といけるぞ?」
「ホントに?」
口元から汁を垂らしながら、おいしいちくわをモグモグする。
「ホントだって、食べてみ」
「……」
手元のおいしいちくわを見る。
まだうねうねしている。
これを口に入れるのは、相当の勇気を必要と……。
「ほら」
「んぐぅ!?」
口の中に押し込まれる。
どろりと垂れた汁が、口の中に広がって……。
「……あれ? 悪くない?」
「だろ?」
少し生臭いけど、魚介系のダシが効いている。
「……おお」
具の部分も食べてみたら、もっちりとした歯ごたえだった。
ちくわとは違うけど、食べられないこともない。
「……」
「どうした?」
床にうずくまる親友。
「ちょっと、トイレ借りていいか……」
「うん、行ってきたらいい……ぬほぉ!?」
強烈なのがやってきた。
尻を抑えたまま、同じようにうずくまる。
「も……漏れ……」
「アアーッ!」
イモムシのようにうねりながら、大波をやり過ごす。
「は、早くトイレに……」
「で、出る……ぅう!」
腹と尻を抑えたまま、1階にあるトイレを目指す。
「ぐっ、階段の刺激が……!」
「ゆっくりかつ迅速に行くしかない!」
「なぁ……もう楽になってもいいか……?」
「おいバカやめろ! 今そこで出したら階下にいる僕がヤバイ!」
「んぐぉおおお!?」
「いやぁあああ!?」
どうにか難関を乗り越えて、トイレにたどり着く。
震えてうまく動かない指を使い、引っかけるようにズボンを下ろす。
尻を丸出しにして、いざ便器に……。
もちゅん。
親友の尻と合体する。
「いや、このトイレ1人用だから!」
「大丈夫だって! がんばればいけるって!」
「無理だよ! 今の腹の調子で出したら、確実にはみ出るよ!」
「いいから半分よこせ! もう限界なんだ!」
「寄りすぎ寄りすぎ! そっちの尻がこっちに飛び出してるから!」
「もう無理……」
「ちょっと、待っ……」
「アアアアアアアッ!?」
「アアアアアアアッ!?」