女の子を描いてもらおう その2
「なんか気持ち悪いのがうねうねしてるぅー!?」
胸を抑えたポーズで、親友が叫ぶ。
今さっき適当に描いた絵が、机の上をビチビチ跳ね回っている。
「どういうことだよ!? 呪いなの? 呪われたアイテムなの!?」
「どういうことなんだろうね?」
「いやいやいいや! なんでそんな落ち着いてんの!? 黒くて変な物体がナメクジみたいに……き、消えた?」
時間制限により、すーっと消えていく。
検証した通り、機能はしっかり発揮されている。
「おい、角男! はっきりと説明しろ!」
「願いが叶うペンタブレットだよ」
「は?」
「描いたものが現実に現れる」
「お……おお……おぉお?」
すぐには信じられないようだ。
まあ、無理もない。
僕だって、最初は漏らすかと思ったし。
「そんなファンタジーなことが……いや、しかし、実際に呪いの絵が……」
ブツブツ言ってる。
適当な円と線を描いただけで、呪いの絵ではない。
「あれ? そうなると、俺のアイリたんはどうして出てこなかったんだ?」
「それがわからないんだよね」
このペンタブレットで専用ソフトに絵を描けばいい。
そう思っていた。
他にも条件があるんだろうか?
「アイリたん、恥ずかしがり屋さんなのか?」
「そこまで設定が反映されるかな?」
同じように描いてみる。
何かわかるかもしれない。
「……なんで呪いのナメクジの絵を描いてるんだ?」
「アイリちゃんだよ」
「え?」
呪いの絵ではないし、ナメクジでもない。
「あれ? やっぱり出てこないな」
ささっと描いて保存しようとしたら、普通に保存されてしまった。
親友の性癖に問題があったわけではなく、絵に問題があったようだ。
何が違うんだろう?
今まで出てきた絵と、この絵の違い……。
「……あ、わかったかもしれない」
「本当か!?」
「試してみる」
絵の続き……半分に切れた体を修正して、無理やり足をつける。
そして保存。
クギギギギ!
「できた!」
「うおー! すげぇ! 元気な呪いのナメクジが出てきたぜ!」
さっきの絵と、この絵の違い。
それは『全身』が入っていなかったこと。
リアルに再現できるようだし、切断された人間はNGなのかもしれない。
あと、可愛い女の子を描いただけで、呪っていないしナメクジでもない。
「全身を描けばいける」
「そうだったのか!」
「もう一度頼める?」
「任せとけ! このナメクジたちを見ていたら、やる気に満ちあふれてきたぜ!」
まだまだやってくれるようだ。
僕が上手く描けない以上、多少の性癖には目をつぶるしかない。
「またロリを描くつもり? できれば、もう少したゆんたゆんに……具体的に言うと、Oカップ以上でお願いしたいんだけど」
「安心してくれ、今回は俺も本気で描く。わがままボディーのセクシー美女をな!」
「ほ、本当か……!?」
「ああ、この俺がホレた相手だ。一切の妥協はしねぇ」
「!?」
な、なんて真剣な表情なんだ……。
親友がここまで真剣な顔になったのは、裏山で初めてムフフな本を見つけた時以来かもしれない。
あの本があったからこそ、こうして性癖をこじらした親友が生まれたんだ。
これは期待できるかもしれない。
「頼んだぞ!」
「任せろ!」
信じて待つ。
途中からハァハァと荒い息が聞こえてきたので、今度こそセクシー美女に会えそうだ。
「できたぜ、相棒」
「この瞬間を待っていた!」
読んでいた本を投げ飛ばし、親友の元へ駆け寄る。
「見てくれ……これが俺が愛したチチ、シリ、フトモモだ」
満足げな表情。
仕事をやり切った男の顔をしていた。
「どうだ、この俺の渾身の彼女は?」
「ゴリラだよ!!」
「みんなを癒す最高の天使だよ」
「ゴリラだよ!!!」
誰がどう見てもゴリラだよ!
「やっぱり豊満なボディーだよね」
「豊満どころじゃないよ! 全身から野性味が満ちあふれてるよ!」
「我ながらいい出来だ」
「なんでゴリラなんて描いてんの!? というか、ここどこ!?」
「傷ついた者を癒すには、戦場がぴったりかなって」
「あきらかにこのゴリラが殲滅した感じになってるじゃん! 勝者の背中だよ!」
何度見てもゴリラだよ!
「これが出てきちゃったらどうすんの!? 死ぬよ!?」
「大丈夫だよ。ゴリラは心優しくて穏やかな生物だから」
「そのゴリラに対する絶対的な信頼は何!? ハグされただけでミンチだよ!」
「天使みたいに優しい女の子だから心配ないって」
「女の子要素はないよ! 群れを率いる立派なシルバーバックだよ!」
「何言ってんだよ。女性用装備してたら女性に決まってんだろ」
「どこに女性用装備が!?」
「ほら、赤いビキニ着てるだろ」
「……」
よく見たらヒモっぽいモノがあった。
「な? 可愛い女の子だろ?」
「これを可愛い女の子と言い張るその度胸!」
「おいおい、見た目だけで人を判断するんじゃないよ。性格も最高なんだから」
「人とは判断してないよ!」
サル目人科ゴリラ属のニシローランドゴリラだよ!
「見た目というか、そもそもケツ向けてるし!」
「よく考えたら、俺、尻派だったわ」
「そのこだわりはわからなくもないけど! せめて振り返ろうよ! いや、人を描こうよ!!」
「ちょっと毛深いけど女の子でしょ?」
「ゴリラァアアアアアア!!」
ゴリラァアアアアアアアアアアアア!!!
「さて、保存すればいいんだよな?」
「待て待て待て!」
あわてて止める、
いくら温厚な性格とはいえ、何の対処もしないのはマズイ。
それなりの準備が必要だ。
「少し待っててくれ」
家の中を駆け回り、必要な物をかき集める。
「これを使おう」
「お、懐かしいな」
中学校の時に使っていた自転車用ヘルメット。
妹の分も借りてきた。
ヘルメットがあれば大丈夫だろう。
「いくぞ!」
「おう!」
しっかりとあごヒモを付けてから、名前を付けて保存する。
「……出てこないぞ?」
「あれ?」
普通に保存されるファイル。
天使みたいな女の子は、やってこなかった。