女の子を描いてもらおう
ギギギギギ……。
机の上をうごめく、Zカップの彼女になり損ねたモノ。
どうしよう……。
気合を入れて描いただけあって、なかなか消えてくれない。
ギギギ……グチャッ!
「きぇああああ!?」
床に落下して、いろいろと飛び散る。
それでも動きを止めず、じりじりと近寄ってくる。
逃げ出そう……として、思いとどまる。
誰もいないはずの部屋から変な物音がしたら、僕が家族に怪しまれる。
ここでどうにかするしかない。
「……」
すばやく部屋の中を見回す。
触れたら変な汁が出そうなので、直接触れたくない。
片方だけあった軍手と、部屋干しのニオイが漂うタオルで武装する。
「……これにしよう」
パソコンを入れてきた段ボール。
部屋の隅でそのまま放置してあった物だ。
このサイズなら、なんとか対処できるはず。
ここに入れ、動きを封じよう。
ビチビチビチッ!
「いぃいあああ!?」
触れたとたん、激しく動き出した。
怖い。
怖すぎる。
Zカップの彼女とイチャイチャしたいだけだったのに、どうしてこんなことになってしまったんだ……。
後悔しても仕方がない。
今は動きを止めることが最優先だ。
「い、いくぞ」
暴れ回るZカップ彼女の腕(?)をつかむ。
なんとも言えない硬い感触。
遠近感を表現できなかったせいか、ペラペラしている。
この重さならいける。
「そぉい!」
段ボールに押し込み、ビニールテープで封をする。
飛び出してきたら怖いので、2重、3重と貼っておく。
「……やったか?」
これだけしっかり封をしておけば、飛び出してくることもあるまい。
念のために、人が殺せそうなほど分厚いゲームの裏技集の本を乗せておこう。
ガタガタガタ!
「あきぇぃ!?」
箱ごと激しく震え出した。
これだけじゃ足りない。
「そうだ!」
押し入れを開けて、中の物を引っ張り出す。
空いたスペースにZカップ彼女入り段ボールを置き、周りをいろんな物で固めていく。
本やゲームなどでぎゅうぎゅうにして、無理やり押し入れを閉める。
「……ふぅ」
これなら動けるスペースもないし、暴れようがない。
カタカタ……。
耳を澄ますと、わずかに震える音が聞こえてきた。
これくらいなら大丈夫だ。
安心して机に戻り……。
『ヴォォォォォォ!』
「おきゅぅ!?」
押し入れから響いてくるうなり声に、ビクっとなる。
そうだった。
叫ぶんだった。
でも、これ以上どうすればいい?
もう一度あの箱を開けて、どこにあるかわからない口をふさぐ?
『ヴォォォォォォ!』
「僕が悪かった……許してくれ……」
頭から布団をかぶり、ひたすら消えるのを待った。
「……」
静かになった部屋の中。
チラッと布団をめくって時計を見ると、1時間は軽く超えていた。
「……ふぅ」
もぞもぞと布団からはい出る。
1つわかった。
使い方を誤ると、とんでもなことになる。
何を現実化させるかは、慎重に決めないといけない。
しかし、今の僕の実力では、理想のZカップを描き上げることができない。
せっかく願いを叶えるペンタブレットがあるのに、これじゃあ宝の持ち腐れだ。
どうにかして、絵が上手くなる方法でもないだろうか……。
「いや、もっと簡単な方法があるぞ?」
そうだよ。
自分が描けないなら、誰かに描いてもらえばいい。
僕より絵が上手くて、女の子が大好きで、こんなとんでもない話に乗ってくれる人物……。
「……あいつしかいないな」
カパッと携帯を開いて、連絡先を探した。
「お前ん家来るのも久しぶりだな」
今日のために呼んだスペシャルゲスト。
僕の親友の『御木手塚 宇蔵』。
美術の成績は10段階中2だけど、1の僕より高い。
何より、女の子が大好きだ。
地震が来たら確実に押しつぶされるとてつもない量の秘蔵コレクションを持っている。
1日1プレイ、2観賞、3読破を日課にしているような男。
期待できる。
「そんで、見せたいモノってなんだよ?」
「そう焦らないでよ」
部屋まで連れていく。
「あんま変わってねーな」
「ふっふっふ、そうでもないよ?」
さりげなく、パソコンとペンタブレットをアピールする。
「ん?」
「気づいちゃったかな」
「なんかイカ臭くね?」
「これのせいだから!」
パソコンを示す。
「パソコン買ったのか」
「いや、おじさんに譲ってもらったヤツ」
「ディスプレイも?」
「うん」
「なるほど、ディスプレイは買い替えたほうがいいかもな」
「えっ? なんで?」
「これがイカ臭い原因だろ。俺もよくやるし」
「んん?」
おじさんや親友は、ディスプレイを使って何か致しているらしい。
すぐに代わりは用意できないので、今回は気になる汚れだけ拭いて使うことに。
「ペンタブもあるんだな」
「ふっふっふ、こいつがすごいんだよ」
「ほぅ」
パソコンの電源を入れて、お絵かきソフトを立ち上げる。
「芯が黄色いのは珍しいな」
「そうなの?」
「俺が使ってるのは黒。芯の種類によっていろいろ違うんだけど」
「へー」
これが普通だと思っていた。
他のペンタブレットを触ったことがないので、細かい違いはわからない。
「ちょっと描いてみるか」
線を引いたり、文字を描いたり。
描き心地を確かめる。
「タッチや反応も普通じゃね?」
「最後まで絵を描かないとダメなんだよ」
「ダメとは?」
「そしたらすごいことが起きるから」
「何が起こるんだ?」
「それはもう、すごいことだよ!」
絵が飛び出すなんて言っても、そう簡単には信じてくれない。
うまく乗せてやらないと。
「3Dに変換するソフトでも手に入れたのか?」
「まあ、そんなところ」
ただ3D化するだけじゃなくて、現実で触れたりできるけど。
「理想の嫁を呼び出してみたいと思わないか?」
「……ほぅ?」
親友の目がギラリと光る。
うまく食いついてきた。
「このペンタブレットを使えば、現実になっちゃうんだぜ?」
「立体映像にできるタイプなのか?」
「フフフ……」
あえてごまかしておく。
楽しみはあとに取っておかないと。
「だから、最高にエロくて可愛い女の子を頼む! ビンビンに反応するやつを!」
「……わかったぜ。お前がそこまで言うなら、描いてやろうじゃねぇか!」
よし、完全に釣れた!
「頼んだぞ!」
「任せろ! 夜な夜な鍛え上げたこの右腕は、伊達じゃないぜ!」
「まあ、こんなもんかな」
描き終わったようだ。
『見られると恥ずかしいから……』という乙女みたいな理由により、ずっとベッドの上でマンガを読んでいた。
どんな女の子を描いているのか、まったく見ていない。
楽しみだ。
「もういいの?」
「ああ」
さてさて、どんなエロエロいお姉さんが出来上がったのか……。
「こわっ!」
こちらをにらみつける少女の絵。
「ってか、ロリじゃん! おっぱいないじゃん!」
「アイリたんだよ」
「えっ? 誰?」
「知らないのか? 俺が今ハマってるゲームに出てくる女の子だよ」
「そうなのか」
見ようによっては可愛く……いや、やっぱ怖い。
無駄にリアルタッチなのが怖い。
「せめて、表情をなんとかできなかったの? もう少し笑顔にするとか」
「何言ってるんだ? こういうちょっと強気そうな幼女に罵られたいんだろうが」
親友が性癖を暴露し始めた。
「好感度マイナス突入してるから、いい視線をくれるんだぜ……ああ、たまらん」
「……」
僕の親友だと思っていた人物が、ロリコンの特殊性癖だった。
人選を間違えたかもしれない。
「それで、立体アイリたんに会うにはどうしたらいいんだ?」
「あ、ああ……そうだね」
にらまれるのは勘弁だけど、どう現れるのか気になる。
「名前を付けて保存で」
「なんでもいいのか?」
「いいよ」
「じゃあ……踏みつけてください、と」
保存が成功して、新しいファイルが作られる。
「……なんも起きないんだが?」
「あれ?」
画面から出てこない。
どういうことだろう?
電気マッサージ機やZカップの彼女は、あんなに激しく動いたというのに。
「そんなはずはないんだけど……」
何度か保存し直してみるけど、やっぱりダメだった。
あれ自体が、僕の夢だった?
そんなはずはない。
あの感触やうめき声は、忘れたくても忘れられない。
新しいキャンバスを作って、適当に絵を描いてみる。
ガタガタガタ。
あ、ちゃんと出てきた。
「な……なんじゃこりゃぁあああああ!?」