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願いを叶えるペンタブレット

「さて、今日も描こう」


 パソコンの前に座る。

 もう二度とあんな悲劇を起こさないためにも、地道な努力が必要だ。


「……あれ?」


 いつものように絵を描こうとしたら、ペンタブレットが反応しなかった。

 またパソコンがぶっ壊れたんだろうか?

 いろいろ試して原因を探る。


「あ」


 ペンの先っちょがなくなっていた。

 使っているうちに、削れてなくなってしまったらしい。


「替えとかあったっけ?」


 部屋の隅でホコリを被っていたペンタブレットの箱。

 中に入っていないか確認してみる。


「……」


 説明書とインストール用のCDしかない。

 箱にも、説明書にも、替えの表記はなかった。

 芯は別売りしてるのかな?


「えーと……」


 この前買ったサイトで確認してみる。


「……あ、そういえば、最後の1個だったっけ」


 製品は売り切れになっていた。

 付属アイテムもすべて売り切れ。

 併記してあった公式サイトへ。


「あれ?」


 ページが開かない。

 何度か更新してもダメだった。

 サイト自体がなくなってる?

 検索サイトで調べてみる。


「倒産……?」


 そんなことが書いてあった。

 社長が会社の金を使い込んだらしい。

 『目当てのキャラが出ずついカッとなってガチャを回した』とのこと。

 そんな事情はどうでもいい。

 ペン先の入手をどうしたら……。


「……」


 親友に頼るしかない。


『どうした?』

「ペンの先っちょがなくなってしまった」

『替えはないのか?』

「箱には付属してなかったし、サイトにも売ってない」

『芯の太さわかる?』

「どんくらいだろ? うちで食べてるスパゲティくらい?」

『お前ん家のスパゲティ何ミリよ』

「普通のやつだよ、普通の」

『甘口のスパゲティーくらい?』

「ご家庭の普通じゃない」


 おいしいけど。


『俺ので合うかわからんが、替えの芯持ってくわ』

「よろしく」

『もうちょっとで1キャラのルート攻略終わりそうだから、そのあとな』

「おっけー」


 親友が来るまでの間、差し替える準備でもしておこう。

 限界まで短くなった先っちょ。

 爪で引っ張って……。


「あれ?」


 爪で引っ張って……。




「何してるんだ?」

「先っちょが取れないよ!」


 爪でカリカリやったり、ヨダレで湿らしたティッシュで引っ張ってみても、ピクリともしなかった。

 これじゃあ交換できない。


「あー、確かに減ってるな。こりゃ描けなくなるわ」

「取れそう?」

「やってみるわ」


 ピンセットみたいなもので先っちょをつかむ。


 にゅぽんっ!


「おお!」


 取れた。

 親友が指先でつまむ。


「あれ? なんかしっとりしてる?」

「あ、それさっき僕のヨダレを付けたから」

「汚ねぇな!?」


 投げつけてきた。


「それで、替えの芯は刺さりそう?」

「太さ的にはいけそうだけど」


 芯を交換する。


 ずぶりっ。


 いい感じにハマった。


「ちょっと緩いか? まあ、その辺はあとで微調整すりゃいいか」

「これで描けるかな?」

「試してみようぜ」


 キャンバスの上で適当にペンタブレットを動かす。


「あれ? 反応なし?」

「うん」


 ダメだった。

 角度を変えていろいろやってみるけど、まったく描けない。


「っかしいな? 普通はこれで描けるはずなんだけど」

「この芯と相性が悪いとか?」

「いやー、ペンタブってつまようじでも代用できるし、それが原因とは思えないが……ん?」


 さっき取り出した芯を見て、顔を近づけてくる。


「この芯、2重構造になってるぞ」

「?」

「ほら、土台の部分とすり減ってる部分で、材質が違う」

「……あ、ホントだ」


 今まで使っていた部分は黄色い素材で、中に入っていた土台部分は黒い素材。


「減り方が異常だとは思ったけど、こういうことか」

「この部分がなくなったら終わりってこと?」

「可能性は高いな。何か特殊な素材を使っていたのかもしれない」

「そんな……」


 もうほとんど残っていない。

 これでは片おっぱいくらいしか描けない。


「もう理想のZカップ彼女に会えないの……?」

「再販を待つか、中古で売ってるのを探すしかないな」

「……」


 クリーチャーを量産している場合じゃなかった。

 もっと厳選して描くべきだった。


「まあ、こっちでも探してみるわ」

「うん……」


 親友はそう言うけど、こんな夢のペンタブレットを売る人なんていない。

 社長のガチャ中毒は治らないみたいだし、絶望的だ。


「そう、気を落とすなよ。少しの間だったとはいえ、おもしろい体験できたんだしさ」

「……そうだね」


 このペンタブレットを買ってから、いろんなことがあった。

 激しく振動する電気マッサージ機が現れたり、Zカップの彼女になり損ねたモノが現れたり、謎の物体を食べておなかを壊したり、パンティーを描いて妹に漏らされたり、加恋を描こうとして家族会議になったり、Zカップの彼女になるべき存在だったモノに襲われたり……。


「……」


 トラウマに残りそうな体験しかない。

 もしかしたら、コレ、呪いのアイテムだったのでは……?


「理想の彼女に会いたいなら、現実世界で彼女を作ればいいんじゃね?」

「現実で彼女が作れたら、2次元の彼女を追い求めたりしないよ……」


 Zカップは理想が高すぎるから、妥協してOカップ……せめて、Fカップくらいの彼女でもできればなぁ。


「なぁ、町田さんって何カップ?」

「FだけどそろそろGになりそう」

「そうか」

「……」


 Fカップの女の子が身近にいればなぁ……。




「……」


 あれから1週間。

 すべて夢だったんじゃないかと思うくらい、変わらない日常を過ごしている。

 残っているのは、使わなくなりホコリを被ったペンタブレット。

 新しく別のペンタブレットを買おうとしたけど、お小遣い規制により断念。

 チラシの裏に、鉛筆で描いている。

 少しずつ成長している。


「おい変態クソ野郎。スパゲティーゆでといて」

「あのー、相変わらずお兄ちゃんとは呼んでくださらないのでしょうか?」

「あ゛ぁ?」

「なんでもございません」


 妹はまだご立腹らしい。

 機嫌を取ろうと『妹みたいにぺったんこでも親友がやってるゲームでは需要がすごいらしいよ』とフォローしたのがマズかったんだろうか。

 親友にも誘われたけど、なんかいろいろ怖そうなのでやってない。

 パンティーをかぶった半裸のおっさんが普通にいるゲームらしいし。


「……」


 そういえば、ペン先もこんなスパゲティーみたいな感じだった。

 なんだかもう懐かしい。

 これで代用できたらいいんだけどね。


「……」


 いやいや、まさかそんな……。

 そうは思うけど、見れば見るほどよく似ている。

 でも、これはスパゲティー。

 あんな特殊な効果を生み出すわけがない。




「……」


 ハサミでスパゲティーをカットして、先っちょに突き刺す。


 ずぶりっ。


 まるで純正品であるかのごとく、ぴったりとハマった。


「さすがに無理だろうけど」


 一応試してみる。

 久々にお絵かきソフトを立ち上げて、ペンタブレットをさらさらっと……。


「描けた!?」


 普通に動いた。

 まさかと思い、保存ボタンを押す。


 ビチビチビチッ!


 威勢のいい線が飛び出してきた。


「描けるじゃん!」


 描き心地も変わらない。

 あの秘密の素材は、デュラムセモリナ粉だったのか!


「これだ……これだよ!」


 そう。

 この感触だ。

 しばらく触っていなかったけど、体は覚えている。


「うひょーぃ!」


 テンション上がってきたー!

 描けるんだ!

 アナログ方式ながら、地道に鍛えたデッサン力。

 今ならいける。

 今日こそ、理想のZカップ彼女を描いてみせる!




『ヴォォォォォォ!』

「イヤァアアアアア!?」


挿絵(By みてみん)

 最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。

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